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ムーブマンの広がり

ムーブマンによってデッサンに広がりを感じさせるためには、見る人の心理的作用や認知的機能を利用してムーブマンを感じさせなければなりません。

ムーブマンのための試行錯誤

ムーブマンは様々な表現があり、考え方一つで絵画を大きく変貌させることが出来ます。逆に、意図せず不快な動きを画面に与えないようにするためにも、この要素は大変重要なものです。

平面で基本となる点・線・面を構成することでどのような感覚がもたらされるか実験してみましょう。一本の線も強弱のつけ方一つで様々な表現が出来るように、線の長さや形の角度などで様々なムーブマンが生まれます。もちろん、あなたの狙いによって表現は様々です。

ムーブマンの心理的作用と効果

さて、皆さんがイメージするムーブマンはいかなるものなのでしょう!?ここに、いくつかの例をご紹介いたします。

ムーブマンの広がり図1-ムーブマン・動勢
【図1】

図1においては大きさの違う円を一つの方向へ並べただけの図です。 この場合、見方によっては、小さい円から大きい円の方向へと流れを作って見えてきます。逆に大きい円から小さい円への方向へ流れて見える方もいるかもしれません。 この円がもともと同じ大きさであると仮定した場合、大きいものが手前に小さいものが奥に見えてくることでしょう。しかし、それでも説得力を伴いません。円を作る線は同一の太さですし、 人それぞれの先入観によって、なかなか、動きとして表現したものとしては工夫が足りないようです。

ムーブマンの広がり図2-ムーブマン・動勢
【図2】

図2でも、図1とほとんど同じようですが、右側と左側の大きな2つの四角の面が中央付近の消失点へと収束している錯覚をあたえているため、図1よりも少しばかり、遠近感が動きとなって見えます。

ムーブマンの広がり図3-ムーブマン・動勢
【図3】

図3では4つの異なる線がそれぞれ2つ描かれています。1つの線を見た時、自然と同じもう1つの線へと視線が行くのではないでしょうか?同じ線でも画材や線の特徴を変えると違う意味を与えます。それらの同一の線が離れていても二つの線を認識した時、何らかの意味を探ってしまう心理状態が働いているのではないでしょうか。線の配置や数によっては何らかのリズムも伴ってくるでしょう。ただ闇雲に多くを描いたとしたら、それはただの模様にしか映らないかもしれません。

ムーブマンの広がり図4-ムーブマン・動勢
【図4】

図4では異なる形を3種類描いています。その中で円に注目すると大きさの違う円が3つあります。おそらく小さい円(大きい円)から次第に大きな円(小さい円)へと眼が誘導されていくと思います。始まりと終わりが重要なことがわかります。これを利用すれば円をらせん状に配置したりすることで上昇や下降をイメージさせることも容易なことです。
2つの異なる大きさの正方形に近い黒に眼をやると中間がないため、動きは弱いと感じます。 少なくとも円と比べれば静かな感じです。
長方形はいかがでしょうか。4つの長方形がございますが左右に黒い2つの長方形があり、上下に左右より明度の 高い長方形が2つあります。同じ大きさの形を認識し、明度の違いによって、2種類の違いを認識することである動きが生まれると思われます。 背景との関係で明度の高い方が奥に見え、相対的に明度の低い方が手前に来る感じです。

ムーブマンの広がり図5-ムーブマン・動勢
【図5】

図5は画面いっぱいに動きを表現してみました。なにか波紋のようになってしまい、あまり効力はございません。多く分割してしまったことが原因かもしれませんし、左上から右下への単純な方向性が原因なのかもしれません。波紋の方向性をみれば左上から右下へ、面積に着目すれば右下から左上へと流れて見えます。この2つの力を一体にすることができれば、ちがう力が生まれそうです。

ムーブマンの広がり図6-ムーブマン・動勢
【図6】

図6は立方体を想定してそこに動きを与えてみる試みをしてみました。面a,a'が一番手前にあるため、面積を大きくとり、面b,b'、面c,c'と行くに従い小さくなるようにしてみました。この場合、3つくらいの面の数が具合がいいように感じます。 細かい面を多くおいてみると次第に、動きの効力を失い、どうも模様になってしまいます。ここまでくると動きと共にマッスを意識した立体感を与える表現描写になってきます。また、面と面との境に当たる線が立方体の質感を生み出すことを垣間見ることが出来ます。

ムーブマンは、勢いだけではなかなかうまく表現できるものではありません。様々なテクニックというものはあると思いますが、一番気にかけなければならないことは、見るべき人への心理的作用とその効果です。

ここで留意したいことはボリュームとムーブマンの関係性です。二つの要素を同時に表現しようとする場合、二つの要素が相殺し合うことで狙いのない表現描写に陥ります。そのときボリュームか、ムーブマンか、どちらかを優先させなければならないと思います。例えば、画面全体の動きを表現したいのならムーブマンを優先させ、マッスに関わるモチーフの存在感を強く表したいのならばボリュームを優先させるなど狙いをしっかりもって描写するようにします。

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