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図と地

図と地から感じ取れる心理作用や認知的現象を理解すれば、デッサンや絵画の描き方を飛躍的に発展させることができます。

絵画の図と地[YouTube動画]

絵画を描くうえで理解しておきたい図と地について解説している動画です。

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図と地の主従関係

絵画における図は、文字やモチーフ、対象などの形になり、地はその背景になります。図を認識している時、地の認識は弱まります。

図と地の主従関係

例えば、上の画像の黒い部分を図として意識すると、形の意味内容を読み取ることは難しいと思います。

逆に白い部分を意識して見たとき、THEATERと読み取ることが可能になります。このとき、白を図として見たときの意味内容が明確になると、黒を図として見ることはなくなります。

そして白は図となり、黒は背後に退いて地となります。このように図と地には主従関係があることが分かります。

ルビンの壺

図と地-ルビンの壺
図と地-ルビンの壺

この画像は、「ルビンの壷」といわれる図です。図と地の反転現象が起こりやすい、典型的な画像として知られています。

右側の図を見てみましょう。

シルエットの白い壷を見ている時は、黒色の部分が地となり、背景になります。

しかし、黒色の部分を人物が向かい合った図として見た時は、白い壺が地となり、背景になります。

「ルビンの壷」から、画像の見え方によって、まったく違うものを読み取ってしまうことを理解できます。

絵画を描くときは、このような図と地の反転現象が起こらないように、図と地の両方を意識する必要があります。

あるいは、このように反転する図と地を利用して、絵画を多義的にすることもできます。

図と地を分ける8つの条件

図が認識されれば、そうでない部分は地になることを理解できたと思います。

さらに図と地をコントロールできるようになるために、『図と地を分ける条件』を8つのケースから理解しましょう。

ケース1

図と地を分ける条件-ケース1

ケース1の正方形の中の図形では、面積の狭い部分が、広い部分よりも図になりやすいです。

下図に示した水色の面積の狭い部分が図になります。

図と地を分ける条件-ケース1-正解図

ケース2

図と地を分ける条件-ケース2

このケース2は、ケース1に似ていますが、狭い部分の形が閉じていないのが特徴です。

この場合、形が閉じているほうが、閉じていないほうよりも図になりやすいです。

下図で示した水色の閉じられた部分が図になります。

図と地を分ける条件-ケース2-正解図

ケース3

図と地を分ける条件-ケース3

ケース3には、等間隔で区切られた形が8つありますが、この場合、水平垂直にある4つの形が図になりやすいです。

下図で示した水色の水平垂直の部分が図になります。

図と地を分ける条件-ケース3-正解図

ケース4

図と地を分ける条件-ケース4

このケース4では、等間隔で平行に並んでいる形同士が一体となり、図と感じられます。

下図で示した水色の部分が図になります。

図と地を分ける条件-ケース4-正解図

ケース5

図と地を分ける条件-ケース5

このケース5では、凸型(とつがた)が図に見えます。ここでは凸型の形が手前にあるように見えると思います。

下図で示した水色の部分が図になります。

図と地を分ける条件-ケース5-正解図

ケース6

図と地を分ける条件-ケース6

このケース6では、凹型(おうがた)が地に見えます。ここでは凹型の形は穴が開いているように見えると思います。

下図で示した水色の部分が図になります。

図と地を分ける条件-ケース6-正解図

ケース7

図と地を分ける条件-ケース7

このケース7は、上下に似たような形が組み合わさっています。

この場合、上にある形よりも、下にある形が図に見えやすいです。

ここでは、上下遠近法の効果も感じることができます。上下遠近法は、上よりも下にあるものの方が、手前に感じられるという遠近法です。

下図で示した水色の部分が図になります。

図と地を分ける条件-ケース7-正解図

ケース8

図と地を分ける条件-ケース8

このケース8では、斜線の間にある、縦方向の図が何か問われています。ここでは対称性のある形が、図になりやすくなります。

下図で示した水色の部分が図になります。

図と地を分ける条件-ケース8-正解図

図と地の性質と特徴

これまでみてきた、『図と地の主従関係』と『図と地を分ける条件』から、簡単に『図と地の性質と特徴』を6つにまとめてみました。

  1. 図は形はあるが、地には形がない。
  2. 図は輪郭があるが、地は輪郭がない。
  3. 図は手前に出てくるのに対して、地は背後にあり広がりをもつ。
  4. 図は実在感があるが、地は漠然としていて実態がつかみにくい。
  5. 図は表面があり、抵抗があるように見えるが、地はそのようには見えず、やわらかで空虚である。
  6. 図と地は反転することがある。

次に、この6つの図と地の性質と特徴を踏まえて、歴史的な絵画を鑑賞してみましょう。

図と地を絵画から読む

ここでは、ルネサンス期以降の6枚の絵画に見られる、図と地の要素のはたらき、役割について考えてみてください。

レオナルド・ダ・ヴィンチ

レオナルド・ダ・ヴィンチ-図と地を考える絵画

この画像はレオナルド・ダ・ヴィンチの絵画です。
このような古典的な絵画や写実的な絵画を見ると、描きたいモチーフや主題を引き立てるために、背景を遠ざけるように処理されることが一般的です。例えば背後を曖昧にしたり、闇に変化させたりするような処理をすることがあります。それらは現実空間へ近づけさせたり、モチーフを際立たせたりするための処理と見ることができ、地が図よりも主張しないようにしていることを感じ取ることができます。

ポール・セザンヌ

ポール・セザンヌ-図と地を考える絵画

セザンヌ以降の絵画では、図と地を古典絵画のように単純に見ることができなくなります。        
例えば、このポール・セザンヌの『大水浴図』の絵画は、地に対して単なる背景や背後ではない意味が付加させられています。木々の間に見える空や浴場は、単なる背景にとどまりません。木の幹と人物によってできる三角形の構図に注視すると、人物や木々などの形が複合化して、前面へ押し出されるように見えます。それは単なる群像や風景にとどまらない、抽象的で多義的な要素を感じることができます。木々の間に見られる細く長い空なども、木の幹や枝よりも前面へ押し出されるように見えることで、平面的でありながら、写実的絵画にない多義的な空間を感じさせます。

ジョルジュ・ブラック

ジョルジュ・ブラック-図と地を考える絵画

セザンヌの絵画に影響を受けたピカソやブラックは、絵画の平面化を研究していきますが、その際も図と地の問題は常に提起されています。
特に彼らのキュビスムは、この絵画のように方ぼかしによる個々の形態の集積が、それまでにない空間をもたらしていきます。

それらは一見すると抽象的ですが、完全に抽象化させることはなく、具体的な形態や対象を失うことはありませんでした。その結果、描かれた絵画はあいまいですが、図と地を判別することができます。

ジャクソン・ポロック


出典:Amazon.co.jp

キュビスム以降では、形態や色彩が自律して、抽象絵画が本格的に展開します。絵画から具体的な対象が失われると、何が図で何が地なのかを判別するきっかけが曖昧になり、図と地のあり方が重要な問題になっていきます。
例えばジャクソン・ポロックに見られるようなオール・オーヴァーな抽象絵画は、明確に図と地を分けることはできませんが、図と地を意識的に分けて見ることができます。これは図と地に流動性をもたらして、図と地が一体になることを可能にします。

マーク・ロスコ


出典:Amazon.co.jp

またマーク・ロスコのように、図と地の反転が起こるようにコントロールされた絵画では、同じ四角形が図として見えたり、地として見えたりします。それは鑑賞者の意識で起こるわけですが、それ自体が画家にコントロールされている証といえます。

以上のように視覚の認知に関わる図と地には、多義的で多様性があることが理解できたと思います。今後、図と地が絵画の中でどのように展開するかわかりませんが、絵画制作では見過ごすことができない重要な要素であることに変わりはありません。

フランク・ステラ


出典:Amazon.co.jp

更に現代絵画ではフランク・ステラのシェープド・キャンヴァスに見られるように、基底材の中における図と地の表現だけにとどまらず、絵画全体(基底材)を図として、絵画の周囲を地として意識した表現が生まれていきます。

このように図と地には多様性と流動性があることを理解できます。今後、図と地だけの要素を見たときに絵画がどのように展開するかはわかりませんが、絵画制作では見過ごすことができない重要な要素です。

参考ページ

構図のためのトリミング

絵画の平面性と平面化

デッサンの描き方と基礎技法-目次