デッサンと言う礎 | デッサンの描き方と基礎技法 デッサンと言う礎 | デッサンの描き方と基礎技法

新しいマチエールと質感を表現する

テーマに従って描かれたマチエールは独自の技法を伴います。しかし、技法や技術優位で作られる質感はデッサンや絵画としての質感から逸脱します。

マチエールに変化を与える描写

マチエールは、色合いや艶、塗り方、タッチによって変わり、描き手の個性が最もあらわれる部分の一つです。絵画空間を成立させるためには、マチエールによる集積と流動によって絵画上に質感が表現されて、マッスやムーブマンなどの要素が表現されていきますが、独自のマチエールをコントロールすることは容易ではありません。

独自のマチエールを研究するとき、研究の目的にするのは統一感のある独自の絵画空間を目指すことです。統一感のある絵画空間を支えるのはテーマや主題で、自分が絵画によって何を主張したいのかが重要です。単なるマチエールの技法の研究は絵画空間に統一感を与えることはありません。

そして忘れてはならないのは、マチエールの変化によって絵画空間の中にマチエールを超越した質感や意味合いが表現されなければならないことです。

マチエールと質感の新たな発見

デッサンでの鉛筆や木炭などの限られた道具による習慣として身についた描き方では、なかなか新しいマチエールを表現することは難しいことです。

そこで、使い慣れた道具は置いといて、アクリル絵画でよく使われるメディウムで新たな表現の発見をしていただきたいと思います。

アクリル絵具は白のジェッソ、モデリングペーストなどメディウムが様々あり、描写意識を変化させる画材として良いものです。基底材には厚紙かパネルに画用紙を張ったものを用意すると良いと思います。描画材は墨や木炭、アクリル絵の具など様々に用意していただき、描写してみてください。

マチエールに変化を与える時には、 基底材に凹凸やざらつきを作るメディウムを利用すると良いと思います。地塗り盛り上げ材のモデリングペーストなどはよく知られています。生乾きのうちに波形や櫛目をつけたり、固まったあと、彫刻刀で削ったり、紙やすりで磨いたりできます。

ここでは、デッサンを描く上でメディウムを使って描くことをお薦めしているわけではありません。ただ、メディウムなどによる物質的な材料を使うことで鉛筆などにはない流動性が増し、絵画にみられる組織的に構造化された質感を容易に体感できることをお伝えしています。

新たなマチエールへの試行錯誤

描く際にはさまざまな基底材を用意してみることをおすすめします。描画材となる絵具だけではない新しい発見があります。

アクリル絵具は水で薄めたり、よく乾かしてから重ね塗りするなどして、目的の画肌を作り出してほしいと思います。はじめは何らかの質感を生み出そうとするのではなく、メディウムなどの材料とさまざまな物質で遊んでみる意識で取り組むと良いと思います。

例えば最初にジェッソやモデリングペーストなどで凹凸をつけながら面白い形を追求すると面白いかもしれません。その後、そこに描写をしてみることで最初に仕込んだジェッソ、モデリングペーストにより、面白いマチエールができることでしょう。

この上から描く絵具は画面の乾燥状態によって変化します。溶かした黒をたらし込んだり、擦り付けたり、色々と魅力のあるものに近づけていってほしいと思います。

ジェッソには砂を混ぜたり、おがくずを混ぜたりする事が出来ます。その凹凸はなかなか描写するのみでできるマチエールではありません。さまざまな紙を貼っても良いと思います。いろいろなものを組み合わせて新しいものを生み出すことが重要です。

そのような実験の結果を踏まえて、何らかのテーマを表現するための質感を目指して更に試行錯誤してほしいと思います。

一貫したテーマからできる質感

現在ではマチエールを生み出すために、様々な技法があります。なかなかオリジナルを作り出すことは難しいし、骨の折れることなので既存の技法に頼る人が多いです。

多くのマチエールの表現描写にはパワーがあるので、それらを真似することを優先させてしまい、自分の絵画の主題やテーマから逸れてしまう人が多くいます。

一枚の絵に様々なマチエールがあれば、それは様々に響きあって力強い絵が出来上がるかもしれません。しかし、それは統一した絵画の構造によってできた質感表現ではないので、統一性のない絵画になったり、単なる材料や物質の塊に終止してしまいます。

マチエールを追求するとき、そこでは一貫したテーマによる統一された構造を目指す必要があります。ただ単に技法を追い求めると技法の標本が出来上がります。良い絵画は目的、テーマに合致したマチエールが流動的に変化して、組織的に構造化された質感が生み出されます。

力強い技法やマチエールだけでは良い絵に近づくことはなく、テーマに適合した絵画空間と質感を生み出そうというマチエールへの試行錯誤が良い絵へ向かわせると考えるべきでしょう。

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