デッサンと言う礎 | デッサンの描き方と基礎技法 デッサンと言う礎 | デッサンの描き方と基礎技法

ムーブマンとは?

デッサンでは動きを感じさせるような表現をムーブマンとよくいいます。ムーブマンを理解することで鑑賞者の心理的側面や認知的機能を利用して平面や立体に動きを感じさせることができます。

美術におけるムーブマン

ムーブマンとはフランス語でMouvementと表記します。英語ではMovementで運動、活動、動作、動向、姿勢、態度などの意味があります。

美術では絵画や彫刻から感じられる動きや動勢をムーブマンといいます。

この時ムーブマンを大きく2つに分けて考えることができます。1つ目は対象(モチーフ)自体に認められる固有のムーブマンです。2つ目は点、線、面、色彩などの造形要素の構成によるムーブマンです。

これら2つのムーブマンについて考えてみます。

対象(モチーフ)固有のムーブマン

表現しようとする人物や動物などには固有のムーブマンがあります。人物の体の構造などは普遍的なので人物固有の動きを表現した作品は見る者を魅了します。これは馬などの動物なども同様です。ここでギリシア美術のポリュクレイトス作『槍を担ぐ人』(紀元前450年頃、大理石模刻、高さ199cm、ナポリ国立考古博物館)から人物固有のムーブマンを考えてみましょう。

この像にあるムーブマンを感じてみてください。

ポリュクレイトス作『槍を担ぐ人』

この像に見られる収縮と伸張は穏やかな運動に呼応していて、像全体が男性像の理想的な均整を表しています。このように像全体がS字を描く片足重心の立ち姿をコントラポストといいます。コントラポストは彫刻のみならず絵画における人物像に効果的に生動感を与えます。

この像のように人物の動き(ムーブマン)を表現するには人体の仕組みを理解する必要があります。絵画においても人物表現では人体の仕組みを理解する必要があります。

造形要素の構成によるムーブマン

平面や立体において造形の要素を配置し構成することでムーブマンが生まれ、作品に独特の空間が広がります。

絵画であれば線の強弱だけでもムーブマンが生じるので、この線の要素は水墨画や人物クロッキーなどで利用されています。これらは自然や人物という対象を線という造形要素によって表現する場合ですが、抽象画や色彩構成などでは対象を超越したムーブマンを生じさせることが可能です。

たとえば色を構成するとき2つの同一の色を離れたところに配置すれば2つの色が響きあい動きが生じます。この作用を利用すれば、鑑賞者の視線を誘導することが可能になります。色彩だけでなく色の形態を工夫することで更にムーブマンを引き起こすことが可能になります。

立体では配置する形態の関係が重要です。同一の形態だけでなく、大小関係によって空間を歪ませたり、現実空間を超越したりすることを可能にします。このような手法で鑑賞者の視線や体感をコントロールすることが可能になります。


このようにムーブマンは心理的な方法や人間の認知的機能を利用して、平面や立体に動きを感じさせることができます。

その動きを感じさせるためには、人間の心理作用や認知機能を理解していく必要があります。そして、それらを理解した造形要素の構成や配置、技巧のバリエーションが作品に導入されていくとよいでしょう。そのような手法自体が作品になることもあります。

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