デッサンと言う礎

図と地

図と地から感じ取れる心理作用や認知的現象を理解すれば、デッサンや絵画の描き方を飛躍的に発展させることができます。

図と地は主従関係にある

【図1】
図と地-THEATER-

図は文字やものなどの形があり、地はその背景と考えることができます。図を認識している時、地の認識は弱くなります。図と地は主従関係にあります。
【図1】の黒い部分を図として強く認識する時、形の総合的な意味内容を判読しようとしても困難です。この【図1】を白抜きの文字として認識した場合、THEATERと容易に判読することができます。その場合、白が図となり、黒が地となります。

【図2】
図と地-ルビンの壷-

【図2】は「ルビンの壷」といわれる図です。図と地の逆転現象が起こりやすい典型的なものです。白い壷を図として認識している時は灰色の部分が地となり背景になりますが、人物が向かい合っていることを認識する時は白い壺が地となり背景になります。

「ルビンの壷」は認識の仕方によって、まったく違うものを読み取ってしまう典型的な図です。それは図になるものやモチーフの形態を描こうとする時、背景になる地の境界も同時に描いていることを理解させてくれます。デッサンではこの図と地の要素を意識した描き方が重要です。背景の形を意識した描き方は絵画を多義的にし、見る者を魅了させます。背景の形態を意識して絵画を見ると、図と地に対する画家の意識が読み取れ、形態の扱い方がわかります。

古典的な絵画や写実的な絵画を見ると、描きたいモチーフや主題を引き立てるために背景を遠ざけるように処理されることが一般的です。例えば背後を曖昧にしたり、闇に変化させるような処理をすることがあります。それらは現実空間へ近づけたり、モチーフを際立たせるための処理と見ることができ、地が図よりも主張しないようにしていることを感じ取ることができます。

その後、セザンヌの絵画などに見られるように、地に対して単なる背景や背後ではない意味が付加させられていきます。ポール・セザンヌ『大水浴図』では木々の間に見える空や浴場は単なる背景にとどまりません。木の幹と人物によってできる三角形の構図に注視すると人物や木々などの形容を無視した形態が全面へ押し出されるように見え、単なる群像や風景にとどまらない抽象的で多義的な要素を感じることができます。木々の間に見られる細く長い空なども木の幹や枝よりも前面へ押し出されるように見えることで、平面的でありながら、写実的絵画にない多義的な空間を感じさせています。

セザンヌ『大水浴図』
ポール・セザンヌ『大水浴図』1905年 油彩 キャンバス 208x249cm フィラデルフィア美術館

セザンヌに影響を受けたピカソやブラックは、形態を自律させることで絵画の平面化を研究していきます。その際も図と地の問題は常に提起されています。主にキュビスムは方ぼかしによる個々の形態の集積が、それまでにない空間をもたらしていきます。それらは一見すると抽象的ですが、完全に抽象化させることはなく、具体的な形態や対象を失うことはありませんでした。

形態や色彩が自律して抽象絵画が本格的に展開すると具体的な対象が失われ、何が図で何が地なのか判別させるきっかけが曖昧になり、図と地の問題は絵画にとってさらに重要な問題になっていきます。図を容易に地として見ることができる絵画が多く生まれていくと、図と地という要素が一体となっていくことになります。例えばジャクソン・ポロックやマーク・ロスコに見られるようなオール・オーヴァーな抽象絵画が生まれていきます。

更に現代絵画ではフランク・ステラのシェープド・キャンヴァスに見られるように、描かれる形態の図と地の意識的な表現だけでなく、絵画全体を図として、絵画の周囲を地として意識した表現が生まれていきます。今後、図と地だけの要素を見たときに、絵画がどのように展開するかはわかりませんが、絵画制作では見過ごすことができない重要な要素であることは間違いないでしょう。

参考(構図のための図と地について)

トリミングから構図へ

図と地の性質と特徴

  1. 図は形はあるが、地には形がない。
  2. 図と地の境界は、図の輪郭になる。地は輪郭を持たない。
  3. 図は手前に出てきて、地は背後にあって広がりをもつ。
  4. 図は実在感があるが、地は漠然としていて実態がつかみにくい
  5. 図は表面があり抵抗があるように見えるが、地はそのようには見えずやわらかで空虚である。

図になりやすい条件

【ケース1】

面積が狭い部分のほうが広い部分のよりも図になりやすい。

図と地の条件1


【ケース2】

上図に似ているが狭い部分の形が閉じていないのが特徴。
この場合、 形が閉じているほうが、閉じていないほうよりも図になりやすい。

図と地の条件2


【ケース3】

等間隔で区切られた形が8つありますが、この場合、水平垂直にある4つの形が図になりやすいです。
面積が変われば【ケース1】の通りに図と地は変化するでしょう。

図と地の条件3


【ケース4】

この図の場合、同じ幅を持つ形が図になりやすいです。

図と地の条件4

  1. 図と地
  2. 群化
  3. 形態の錯覚と錯視効果
  4. 明度の錯覚と錯視効果
  5. 色彩の錯覚と錯視効果
  6. 恒常性
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デッサン描き方と基礎技法-目次