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油絵で使うホワイト(白色)の種類と特徴

ホワイトの種類と特徴

油絵具にはさまざまなホワイトがあります。

絵画制作のスタイルによって、使うホワイトをしっかり選択していきましょう。

ここではホルベイン製のホワイトを参考にして解説していきます。

ホルベイン製の油絵用のホワイトには、描画用ホワイト6種類、地塗り用ホワイト2種類があります。

簡単にそれぞれのホワイトの特徴や用途について理解しましょう。

セラミック ホワイト

  • 特徴:ホルベインが1990年に開発した青みのある寒色系のホワイトです。もっとも高価なホワイトで、毒性がなく、黄ばみが少ないのが特徴です。肉眼で最も白く感じられるホワイトです。着色力や隠蔽力などのバランスも優れています。
  • 用途:下描きから上描きまで使え、他の色との混色で美しい色調がつくれます。
  • 顔料:チタン酸ストロンチウム(SrTiO₃)
  • 展色材:ポピーオイル
  • 透明度:不透明よりの半透明
  • 混色制限:なし
  • 毒性:なし

シルバー ホワイト

  • 特徴:乾燥が早く、収縮や膨張が少ないので、丈夫な画面を作ることができます。やや黄色味を感じさせる暖色系のホワイトでクレムニッツ ホワイトやフレーク ホワイト、レド ホワイトと称される場合があります。 顔料の鉛白には毒性があり、黄ばみやすさがあります。また、硫黄を含んだ絵具との混色で暗色化する懸念があるので、硫黄系の絵の具との混色は避けなければなりません。これを混色制限といいます。混色制限することで鉛と硫黄による硫化鉛(黒色)の生成を未然に防止することができます。制限される硫黄系の絵の具にはN記号が記されています。
  • 用途:下塗りや中描きに適しています。乾燥が早いため、下塗りとして使用し、次の層を早く描き始めることができます。中世から近世の西欧の絵画では重要なホワイトで現代でも古典技法(カマイユ技法など)では欠かせません。
  • 顔料:鉛白(塩基性炭酸鉛 2PbCO₃•Pb(OH)₂)
  • 展色材:ポピーオイル
  • 透明度:不透明よりの半透明
  • 混色制限:あり(S記号であるシルバーホワイトにはN記号の色を混ぜることができません)
  • 毒性:あり(鉛白に毒性あり)
  • 追記:混色できないN記号の色にはコバルト ブルーヒュー、ウルトラマリンライトとディープ、インジゴ、ネイビー ブルー、ミスティ ブルー、モーブ、ブルー ブラック、バイオレット グレイ、ペインズグレイがあります。

ジンク ホワイト

  • 特徴:透明感があり、青みのある寒色系のホワイトです。ジンクホワイトが下層にあると、上部の絵の具の油の吸収し、ひび割れを起こす原因になります。そのような特徴からジンクホワイトは捨てろと言う画家もいます。しかし上描きで繊細な表現が可能なので使用する画家も多くいます。
  • 用途:仕上げ段階の上層部の色調整に適していて、繊細な光の透過や反射を表現することができます。 薄く塗り重ねるグレーズ技法では、微妙な色の変化が表現できます。
  • 顔料:亜鉛華(酸化亜鉛 ZnO)。19世紀に開発された人工顔料。
  • 展色材:ポピーオイル(SF)、またはサフラワーオイル(No.1)。サフラワーオイルの方が安く学習用、研究用と位置付けられています。成分上の優劣はないと考えられています。
  • 透明度:不透明よりの半透明(最も透明度の高い白色)
  • 混色制限:なし
  • 毒性:なし

チタニウム ホワイト

  • 特徴: 非常に高い白色度と着色力、隠蔽力を持ちます。描かれている絵画を白色で覆い隠すことができます。しかし高い着色力や隠蔽力は混色した色や下層の色の良さを失わせる懸念があります。
  • 用途: 不透明で白色度が高いので下塗りや塗りつぶしに適していて、明るいベースをつくることができます。高い白色度は他の色を明るくしたり、ハイライトを強調したりすることができます。
  • 顔料:酸化チタン(TiO₂)。20世紀初頭に開発された人工顔料です。
  • 展色材:ポピーオイル
  • 透明度: 不透明(最も透明度の低い白色)
  • 混色制限:なし
  • 毒性:なし

パーマネント ホワイト

  • 特徴:すべての白の欠点をカバーするホワイトです。 毒性や混色制限はなく、亀裂や剥離を生じさせず、隠蔽力は強すぎません。以上のことから初心者に最もススメられる白色です。
  • 用途:下描きから上描きまで幅広く安定して使用することができます。
  • 顔料:ルチン型チタン白(酸化チタンTiO₂)。チタニウムホワイトをベースにした調整顔料です。
  • 展色材:ポピーオイル(SF)、またはサフラワーオイル(EX)。サフラワーオイルの方が安く学習用、研究用と位置付けられています。成分上の優劣はないと考えられています。
  • 透明度:不透明よりの半透明
  • 混色制限:なし
  • 毒性:なし

クイック ドライング ホワイト

  • 特徴: 乾燥が非常に速く、薄く塗ると4〜6時間で乾燥します。
  • 用途: 速乾性を活かして、次の層を早く塗ることができます。強固な塗膜を形成するため、ナイフや他の道具でテクスチャーを作るのに適しています。
  • 顔料:チタン白(酸化チタンTiO₂)、炭酸カルシウム。
  • 展色材:ポピーオイル、アルキド樹脂。
  • 透明度:不透明よりの半透明(ジンクホワイトに近い透明性)
  • 混色制限:なし
  • 毒性:なし

ファンデーション ホワイト(地塗り用ホワイト)

  • 特徴:乾燥が速く、堅牢で耐久性に優れています。表面に筆跡や凹凸のあるテクスチャーをつくることができる地塗り用ホワイトです。顔料に鉛白が使用されているのでシルバーホワイト同様に毒性があり、混色制限があります。
  • 用途:キャンバスや木製パネルなどの下地として使用されます。特に古いキャンバスの再利用や新しいキャンバスの準備に適しています。。
  • 顔料:鉛白、チタン白(酸化チタンTiO₂)。
  • 展色材:リンシードオイル(ポピーオイルよりも固着力が強い乾性油で、黄変する性質があります。)
  • 透明度:不透明
  • 混色制限:あり(硫黄系(N記号)の色を混ぜることは避けたい)
  • 毒性:あり(鉛白に毒性あり)

ネオ クイック ベース(地塗り用ホワイト)

  • 特徴:速乾性と隠蔽力のある地塗り用ホワイトです。展色材にアルキド樹脂が含まれているのでファンデーションホワイトよりも早く乾きます。
  • 用途:キャンバスや木製パネルなどの下地として使用されます。速乾性が求められる作品や、重ね塗りを早く行いたい場合に適しています。
  • 顔料:チタン白(酸化チタンTiO₂)。
  • 展色材:リンシードオイル、アルキド樹脂、石油系溶剤
  • 透明度:不透明よりの半透明
  • 混色制限:なし
  • 毒性:なし

描画用ホワイト - 特性ランキング

ここでは描画用ホワイトの特性ランキングを示します。

透明度ランキング

  1. ジンク ホワイト(5.2)
  2. クイック ドライング ホワイト(4.5)
  3. シルバー ホワイト(2.8)
  4. セラミック ホワイト(2.1)
  5. パーマネント ホワイト(2.0)
  6. チタニウム ホワイト(0.3)

    ※(数値)=数値が大きいほど透明度が高い

    最も透明度が高いのがジンクホワイトです。クイックドライングホワイトは展色材にアルキド樹脂が含まれている影響で透明度が高いと思います。

乾燥ランキング

  1. クイック ドライング ホワイト(0.6)
  2. シルバー ホワイト(2.0)
  3. セラミック ホワイト(3.0)
  4. チタニウム ホワイト(3.0)
  5. パーマネント ホワイト(3.7)
  6. ジンク ホワイト(4.4)

※(日数)=数値が小さいほど乾燥が早い

塗膜の厚さが0.3mmの場合の乾燥の速さです。最も乾燥が早いのが、展色材にアルキド樹脂が利用されているクイックドライングホワイトです。3と4は同位です。

白色度ランキング

    肉眼で見たときの白色度
  1. セラミック ホワイト
  2. ジンク ホワイト
  3. シルバー ホワイト
  4. チタニウム ホワイト
  5. パーマネント ホワイト
  6. クイック ドライング ホワイト
    計器による白色度
  1. チタニウム ホワイト
  2. パーマネント ホワイト
  3. クイック ドライング ホワイト
  4. セラミック ホワイト
  5. ジンク ホワイト
  6. シルバー ホワイト
肉眼で見たときの白色度ランキングでは青みのあるセラミックホワイトが最も白色度が高いです。 青みのあるジンクホワイトも白色度が高いので、青みのあるホワイトは白色度が高いように感じられるようです。計器による測定ではチタニウムホワイトが一番白色度が高いとされています。

黄色度(黄ばみ)ランキング

  1. シルバー ホワイト(2.07⇒11.29)
  2. ジンク ホワイト (0.95⇒7.66)
  3. パーマネント ホワイト(3.53⇒6.70)
  4. チタニウム ホワイト(3.42⇒6.66)
  5. クイック ドライング ホワイト(4.11⇒6.41)
  6. セラミック ホワイト(1.32⇒5.47)

※(乾燥直後の塗膜⇒1年後の塗膜)=数値が大きいほど黄色度が高い

ここでは0.15mm厚に塗られた白色の1年後の黄色度ランキングを示しています。シルバーホワイトがダントツで黄色度は高いです。セラミックホワイトは黄色度が低いのですが、乾燥直後からの黄色度の変化は大きいです。乾燥直後から黄色度にあまり変化がないのは顔料にチタン白を含んでいるホワイト(チタニウムホワイト、パーマネントホワイト、クイックドライングホワイト)です。ジンクホワイトは乾燥直後からの黄色度の変化が一番大きいです。

初心者のためのホワイト(白色)の選び方

はじめて油絵を描こうとする人は、パーマネントホワイト、セラミックホワイト、シルバーホワイトのどれか一つを選び、補助用のホワイトとしてチタニウムホワイトを用意しておくと良いと思います。その理由を下記に記します。

パーマネントホワイト

初心者におススメできるホワイトはパーマネントホワイトです。毒性がなく、混色制限がない、安定したホワイトです。このホワイトだけで描き始めから仕上げまで描き切ることができます。

乾燥が遅いのが難点ですが、あらかじめアルキド樹脂系の画用液を加えておけばクイックドライングホワイトと同様の効果が期待できます。

セラミックホワイト

セラミックホワイトも毒性がなく混色制限もありません。このホワイトだけで描き始めから仕上げまで描き切ることができます。価格が高いのが難点です。

私はセラミックホワイトを使用したことがあるのですが、使い勝手が良く、青みがあることが実感できました。寒色系の白色で描きたい場合はこのホワイトがおススメです。

シルバーホワイト

毒性や混色制限がありますが、シルバーホワイトもおススメです。シルバーホワイト特有の粘りや速乾性、強い画面をつくる利便性は他のホワイトにはありません。長く利用されてきた歴史もあるので根強い人気があります。古典技法で描く場合はこのホワイトが利用されます。

私自身はシルバーホワイトを長く利用しています。混色制限はほとんど無視してましたが、硫黄系の絵の具を避けて描くことは難しくありません。毒性に対しては、粉じんを吸い込んだり傷口に触れたりしないように注意が必要です。飛沫や粉じんが飛ぶような描き方には不向きなホワイトです。

チタニウムホワイト

どのホワイトを使用するにしても、チタニウムホワイトは白色度を調整するための補助用のホワイトとして用意するべきです。ハイライトの描写などでも活躍します。

参考文献

  • 『WHITE NOTE』ホルベイン工業株式会社

油絵の道具-目次

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