デッサンのポイントを探る
目の特性を理解したデッサンのポイントやコツが何かわかれば、自分が求めているデッサンへ近づくことができる。
このページの目次
デッサンを描くための情報
デッサンのための情報やポイントを捉えるには、人がものを認識するときの特性を理解しなければなりません。情報を捉える能力の向上はデッサンや絵画の描写スピードを速めます。
デッサンを目の働きから考える
対象を見る時の目の動きを「サッケード」といいます。
人間の視野は水平方向180度、垂直方向130度ほどの角度で楕円の形状をした範囲といわれています。
ただ、この範囲が全て一様にはっきり見えているわけではありません。網膜にある錐体細胞が多く集まった部分に映った像が一番明瞭に見ることができます。
その範囲は約2度程度といわれているので、視野にあるほとんどの部分は、ぼんやりと目に映っていることになります。しかし、眼球が常に動いていることで視野全体を明瞭に認識することができます。
眼球は一点を注視する時間が1/3秒といわれ、その後眼球が1/30秒で移動します。つまり、1秒間に3点を注視し、3回移動していることになります。
そこで何を基準に、あらゆる物体を注視しているのかが気になるところです。注視することによって、目に映る像をどのように把握しているのか知ることでデッサンに役立てることができるかもしれません。
デッサンと対象物の特徴
何らかの物体を認識する場合、物体の特徴に多く注視されることが知られています。では、物体の特徴、形の特徴とはどのようなものか考えてみましょう。
四角い形なら、当然4つの角が重要な特徴です。球体ならば前に出てくるふくらみ、後ろへ回り込む変化が重要になります。ものの質感を感じることができる部分も重要な特徴です。
金属、紙、ビニールなどの特徴を考えてみると光の反射、強度、透明度、重さなど素材の性質などの特徴が多い部分は重要です。それらの性質がよくあらわれた所に目は多く注視しています。
紙が破れていればそこは紙と認識するのにたいへん重要な特徴であろうし、紙の折れた部分なども大きな特徴があります。
このように、物体の特徴を取り上げて認識することは、こちらの意図することを見るものに伝える手がかりになります。
対象の特徴をデッサンとして表現できることは、対象の特徴を見出す観察力が重要で、その特徴をデッサンにする表現力が必要になります。
あなたの意図するテーマに従い、特徴となる情報を捉えていきましょう。
石膏デッサンと眼球運動の関係
石膏像を描くときの眼球運動を考えてみてください。石膏像を見るとき自分が何に意識を向けているのか理解しておきましょう。
石膏デッサンのポイントを知る
石膏デッサンは通常、古典技法による陰影法によって描かれていきます。
陰影法は石膏像全体のボリュームを優先して描写するので、細かい目や鼻、口などの細かい描写の手順は後回しにされます。
目や鼻、口などは、陰影法によって作られた空間の秩序が壊れないように描写されます。これは写実的な絵画空間におけるバルールを意識した描き方です。
バルールは色価(しきか)と呼ばれ、絵画空間における相対的な色彩や陰影、コントラストです。写実的な絵画空間を成立させるには、適切なところに適切な色彩や陰影、コントラストで描くことが求められます。
これは、古典的な技法で写実的に描くときには重要な方法です。これを踏まえたうえで石膏像の眼球運動の軌跡から、通常の陰影法とは違う描き方を考えてみましょう。
石膏像の特徴を認識しようとした場合、眼球運動は下図のようになります。
このとき、空間における石膏像を捉える意識よりも、どのような石膏像かを認識しようとする意識が強く、眼球運動は陰影を無視する傾向があると考えられます。
このような石膏像の認識の仕方をデッサンなどで表現するとき、古典技法のような陰影法で描くよりも、細部の描写を優先させる方法で描くほうが理にかなっているかもしれません。
それは描き始めから目や鼻、口、耳など石膏像にある特徴的な細部をポイントにリアルに描く方法です。
この場合、古典的な陰影法ではないので石膏像や絵画空間は立体感が損なわれ、イラストやデザイン的な絵画空間になる傾向があります。
このような対象の特徴であるポイントを意識したデッサンの描き方は、平面的な絵画や説明的な描写が求められる絵画を描くときには有効だと思います。また、短時間で描くクロッキーや細密デッサンの描写力の向上にも役立つでしょう。
テーマにしたがってポイントを探る
デッサンや絵画を描くためのポイントは眼球運動の軌跡だけでなく、絵画制作のテーマや動機の中にもあります。そのポイントを理解するための訓練をすれば個性的なデッサンや絵画が展開します。
対象物を描くことと個性
モチーフの特徴を探りながらデッサンを描く時、できあがる作品の多くは、モチーフの特徴に焦点があてられるので作者の個性が損なわれている傾向があります。
モチーフのポイントだけに焦点を当てて描いた作品は個性のない、つまらないものなので、この一歩先を行った描き方を考えなければなりません。
そのためにはデッサンの要素となるモチーフの特徴であるポイントだけでなく、自分の絵画制作のテーマや動機を絵画へしっかり取り入れる必要があります。
描きたいテーマと個性
絵画制作でテーマを設定したときのモチーフと個人的な経験を複合させた絵画制作の例を考えてみましょう。
ある日、あなたがスーパーで夕食のカレーの材料を買いにでかけました。この時、テーマは「おいしい具沢山の激辛の野菜カレー」に決定します。スーパーで沢山ある野菜の中から、カレーの材料 になりそうな野菜へ目がとまります。カレー粉は行きつけのインドカリー「ブッダガヤ」で 100種類以上の中から厳選したカレーのスパイスを購入しました。大きめのなべで野菜をいため、 スパイスの調合を行い、カレーが出来上がったころには西日が差してカレーがオレンジ色に輝いています。夕日を浴びながら少し早めの夕食を食べました。想像していた以上に辛かったけど野菜の新鮮さに 涙を流して、食べました。
「おいしい具沢山の激辛の野菜カレー」というテーマにしたがって、絵を描いた時、先ほどの経験から描くべきポイントが導き出されるでしょう。
「おいしい具沢山の激辛の野菜カレー」をつくるために 必要不可欠な場所や経験、例えば出来上がった時にカレーがオレンジ色に輝いたことなど、それらは、個人個人で思い入れ、感じ方が違います。
その感じたことをテーマに沿って表現し、見る人に感じてもらうためにポイントとなる特徴をそれぞれが吟味し発見し、表現していくことがとても重要なことだと考えます。
個人的な経験を背景にして絵画のポイントを意識して描かれた絵画は、たんに目前に置かれた「おいしい具沢山の激辛の野菜カレー」を描いた絵画よりも個性的で鑑賞者へ伝わるポイントを表現することができると思います。
デッサンのポイントを探る本
『脳は絵をどのように理解するか―絵画の認知科学』は絵画の認識の仕組みを科学的に分析しています。デッサンを描くためのポイントを考える上で貴重な参考書です。
脳は絵をどのように理解するか―絵画の認知科学
デッサンを勉強していく上で必然的に脳の仕組みや心理的効果、認知的現象などを勉強することが必要になっていきます。 絵画制作上、見たこと感じたことを適切に描いていくことは簡単なことではありません。 そんな時、"何故そのように見えたのか""何故そのように感じたのか"を違う考え方で捉えることが必要になります。 そこで客観的に脳の仕組みや心理的効果、認知的現象を理解すれば、見たこと感じたことを適切なポイントにしぼって絵画へ反映させることが可能になるでしょう。 この本は、脳の仕組みや心理的効果などを絵画を基点に解説しています。その内容は一読して理解できることから、絵画製作を繰り返すことで理解できることまで幅広いものです。
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