デッサンと絵画の歴史
既成のデッサンや絵画を乗り越えるために絵画の歴史を考え、自分のデッサンの発展のために視野を広げる。
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絵画の歴史からデッサンのヒントを探る
デッサンを描くとき、様々な目的で描いていると思います。もし、デッサンを描く目的が絵画制作だとしたら、少しばかり絵画の歴史の流れを知っていてもいいかもしれません。
当然、絵を描く上で美術史など知らなくてもいいのですが、画家がどんな考え方で絵画を描いていたかを知ることは、デッサンをはじめ絵画を描く上でヒントになります。
絵画の歴史といっても、東洋絵画、西洋絵画など様々にあります。日本絵画の浮世絵ひとつ取り上げても当サイトですべてを紹介することは困難です。
そこで、ここでは西洋絵画の写実主義以降を取り上げ、偉大な画家たちの絵画の取り組み方を考えてみたいと思います。
デッサンの描き方と考え方につながる絵画史
写実主義絵画以降の西洋絵画の特徴から、自分のデッサンの描き方や考え方を再認識すると共に、今後の制作で取り入れていくべきものがあるのか考えてみてください。
写実主義
- 人物
- ギュスターブ・クールベ【1819-1877】, ミレー【1814-1875】, ドーミエ【1808-1879】
- 絵画の傾向
- 写実主義は、現実のありのままを描こうとする一派です。それまでの理想化、空想化した歴史画や空想画にはない現実世界を追求しました。
- 参考ページ
- 印象主義
印象主義
- 人物
- マネ【1832-1883】, モネ【1840-1926】, ルノワール【1841-1919】, ドガ【1834-1917】
- 絵画の傾向
- 写実主義と同様の主題を受け継いでいたのが印象主義です。それまでの写実的絵画にあった技法では満足できず、よりリアルな絵画を志すために筆触分割という技法が生み出されました。
- 参考ページ
- 印象主義
新印象主義
- 人物
- スーラ【1859-1891】, シニャック【1863-1935】
- 絵画の傾向
- 印象派の感覚的な写実主義に対して、より科学的、理知的な原理を絵画に導入しました。
- 参考ページ
- 新印象主義
後期印象主義
- 人物
- ゴーギャン【1848-1903】,ゴッホ【1853-1890】,セザンヌ【1839-1906】
- 絵画の傾向
- それまでの絵画制作の根拠が外界にあったのに対し、自分の内側に向かっていくのが後期印象主義です。ゴーギャンの「印象派は自分の眼の周りばかりを探していて、思想の神秘的内部へ入り込もうとしない。」という言葉は、それを端的にあらわしています。新印象主義を含め、科学的根拠、形態の純粋性、色彩の純粋性、理論的根拠、内面的表現などがこの時代の重要なキーワードになります。写実主義と縁を切った絵画は、2次元を強調する自己の本性に基づく表現への始まりです。
セザンヌは自然を「円筒、球、円錐」という基本的な形で捕らえようとし、後のキュビズムへ影響を与えています。
ゴーギャンは形や色を単純化し、3次元的表現よりも、2次元的表現を意識した絵画を生み出しています。後のナビ派、フォーヴィズムへ影響を与えました。
ゴッホは自然を再現する色彩や形ではなく、自己の内面の感情を色彩、形態で表現しています。表現主義に影響を与えています。 - 参考ページ
- 後期印象主義
象徴主義
- 人物
- シャヴァンヌ【1824-1898】,ルドン【1840-1916】
- 絵画の傾向
- 人間の存在と生きる中での深い苦悩、その精神性を大事にし、人間の運命や精神性、想像力、神秘性を象徴的に表現しようと追及しました。主題や表現方法は多様にあり、国際的な潮流になりました。
- 参考ページ
- 象徴主義
ナビ派
- 人物
- ドニ【1870-1943】,ボナール【1867-1947】,ヴァイヤール【1868-1940】
- 絵画の傾向
- ゴーギャンに影響を受け、画面の二次元性を尊重し、造形要素そのものの表現力において、絵画表現の上での装飾性と表現性の二つの重要な特色をクローズ・アップさせています。
- 参考ページ
- ナビ派
フォーヴィズム
- 人物
- マティス【1869-1954】,ドラン【1880-1954】
- 絵画の傾向
- 20世紀絵画で最初に登場したのが色彩表現を「秩序」としたフォービズムです。フォービズムの美学は、人間の内的心情の表現であるゴッホのような表現主義的な信条と、ナビ派を通して継承されたゴーギャンの装飾性とが、一つに結びつけられた色彩が持つ表現力にあります。
- 参考ページ
- フォーヴィズム
キュビズム
- 人物
- ピカソ【1881-1973】,ブラック【1882-1963】,レジェ【1881-1955】
- 絵画の傾向
- フォービズムが色彩表現を中心にした絵画の変革でしたが、キュビズムは形態と構成における変革でした。黒人彫刻、古代イベリア美術のプリミティブ(原始的)美術の影響を受けたデフォルメを行ったり、セザンヌの影響を受けた知的な構成が一つになった新しい絵画を構築しました。
- 参考ページ
- キュビズム
エコール・ド・パリ-パリ派と素朴派
- 人物
-
【素朴派】
アンリ・ルソー(1844-1910),モーリス・ユトリロ(1883-1955),ルイ・ヴィヴァン(1861-1936),アンドレ・ボーシャン(1873-1958)
【放浪画家】
シャイム・スーティン(1894-1943),アメデオ・モディリアーニ(1884-1920),マルク・シャガール(1887-1985),藤田嗣治(1886-1968)
- 絵画の傾向
- 特別な理念や美学に支えられる絵画運動や絵画様式に加わらずに、独自の表現を追及した画家たちが「エコール・ド・パリ」といわれる画家たちです。彼らは世界各地からパリにやってきて、抒情性の強い絵画作品を制作しました。
【素朴派】日曜画家のような人で、ほかに職業を持ちながら絵画の制作活動をしていた画家です。彼らはアカデミズムの技巧的絵画表現が崩壊した20世紀において、新鮮な詩情を表現することで注目を集めました。広い意味での「エコール・ド・パリ」は素朴派を含みます。
【放浪画家】第一次世界大戦直前にパリに期せずして世界各地からやってきた放浪画家のことを指します。一般的に「エコール・ド・パリ」の画家は放浪画家を意味します。 - 参考ページ
- エコール・ド・パリ-パリ派と素朴派
抽象主義
- 人物
- カンディンスキー【1866-1944】,ドローネー【1885-1941】,クレー【1879-1940】,モンドリアン【1872-1944】
- 絵画の傾向
- 絵画は自己を離れた現実だけを写し取る再現性から離れ、絵画の自律性が求められ抽象絵画が展開します。抽象絵画の傾向を下記にあげます。
モンドリアンの抽象絵画は、自然を出発点として、それを一つ一つ変貌させながら自然の中に潜む根本原理としての抽象的構成を表現しました。
カンディンスキーは造形的要素は自己の内面表現の手段と考え、絵画は自己内面の造形表現でした。
ドローネーは、外界の現実、内面の現実ともに否定し、色彩そのもの、造形要素そのものの表現力が主題でした。 - 参考ページ
- 抽象主義
絵画の歴史から新たな発見へ
写実主義絵画以降の絵画の傾向を取り上げましたが、ここには取り上げていない絵画の傾向は、数多くあります。個人的に好きな絵画を探求してみることで、自分の絵画に近づけるかもしれません。
絵画は、考え方や閃きで今までとはまったく違う新しいものへ変貌します。しかし、それが既に探求されていたら時間の無駄に終わるかもしれません。または、探求されたものを自己流に変貌をさせることもできます。絵画の傾向や歴史を知ることで自分の絵画の制作に変化を与えるかもしれません。
絵画の特徴や考え方は、画家自身が明言したものもあれば、美術を研究している人が歴史の流れの中で批評し、定義付けを行っているものもあり、画家の意図に反して理解されている場合があります。美術史を取り上げた文献などを鵜呑みにせずに、自分なりの鑑賞方法をすることで、美術史に残る作品から新たな発見ができるかもしれません。
分野別に特集を組んでいる当サイトの芸術って何だ!も参考にしてください!
デッサンの可能性を引き出す色彩
絵画の傾向は継承されるだけでなく、対立や融合を繰り返して一歩一歩発展してきています。その中で写実的絵画、形態にこだわる絵画、色彩にこだわる絵画など様々な特徴を示しています。これらの特徴や要素をモノトーンデッサンだけで習得することは不可能なことです。モノトーンデッサンでできることが一通りわかっていれば、色彩を取り入れていきましょう。
単色デッサンは当然色彩による効果はないので、色彩によって色の3要素【色相、明度、彩度】と、その変化や補色対比の効果、バルール(色価)などを学ぶようにしましょう。
デッサンに色彩が備われば表現の幅は広くなります。フォーヴィズムのように色彩による画面構成、平面的な絵画など、見えるがままに描くデッサンとは違うものを追求することもでき、可能性が広がります。
描いてみてわかることですが、モノトーンデッサンでは素晴らしい作品を描ける人でも、色彩を扱うと稚拙な作品に仕上がることがあります。逆にモノトーンデッサンではうまく描けない方も、色彩の扱い方が卓越で素晴らしい作品ができる場合もあり、色彩を扱う能力とモノトーンデッサンの能力では違う面が多々あります。自分の特徴や能力を発見し伸ばしていけることを望みます。
絵画と美術の歴史を学ぶ本
カラー版 西洋美術史
美術史の全体像を把握するには多くの文献を読む必要性がありますが、その入り口には最適な本だと思います。 造形や絵画の鑑賞には当然必要な知識から、創作活動へのヒントも盛り込まれていると思います。 改訂されている場合があるので最新場をチェックしましょう。
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増補新装 カラー版 20世紀の美術
美術市場や美術館で馴染があり、親しみのある20世紀以降の美術作品が多く掲載されています。 正直『カラー版 西洋美術史』と比べれば、この本は読んでいて楽しいですが、西洋美術史をしっかり学ぶためには『カラー版 西洋美術史』に掲載されていることを理解しておく必要があります。 その後、この本を読むとより一層理解が深まり、現代美術への流れや深さが理解できると思います。
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…初級者、初心者にオススメの本
…中級者、絵画制作を的確に進めたい人にオススメの本
…上級者、自分独自の絵画を確立したい人にオススメの本
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…"このことならこれ"定番の本
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…一般の人に多く読まれている本
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