絵画の構成要素をコントロールする | 絵画を構成するためのヒント
絵画を思い通りに描くためには、さまざまな構成要素を理解してコントロールする必要があります。ここでは絵画をよりよく描くための構成のヒントやコツについて解説します。
このページの目次
絵画を構成するための考え方[YouTube動画]
絵画の構成手法をコントロールするための考え方について解説している動画です。
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絵画の描き方を求めず、絵画を分析する
絵を描くとき、多くの人は絵を上手に描く手順、方法を求めてしまいがちです。
しかし、絵の描き方を求めるよりも、絵を分析できるようになる方が、絵を思うように描くことができるようなります。
絵を分析することは絵画鑑賞の能力を高めることにもなるのでとても楽しい作業です。
ある絵画を見たとき、はじめに何が描かれているか無意識に鑑賞者は分析します。
それを意識的に具体的な要素に分けて分析してみるようにします。
分析する絵画の要素
分析する絵画の要素はさまざまにありますが、ここでは明度、遠近感、色、形について考えてみましょう。
絵画の要素の作用を分かりやすく理解するために、要素を数値化するなどして3分割してみることをおススメします。
絵画の要素を3分割させることとは?
絵画はさまざまな要素で成り立っていて複雑に見えますが、絵画にある1つ1つの構成要素を整理すれば、絵画の構造を読み解くことができます。
その際、絵画の構成要素を3分割にすることで、一つ一つの要素の役割が理解でき、優れた絵画の構成要素には無駄がなく、安定感があることが分かります。
例えば、遠近法では、遠景、中景、近景に三つに分けて絵画を分析し、構造を理解することができます。
1つの構成要素を3分割することで感じられる安定感の要因として、三脚、ブルース、アンケートといった全く絵画と関係のない他分野から次のようなことを考えさせます。
安定感のある三脚
三脚は地面が多少凸凹でも、三脚のうちの一脚が多少短くなっても安定感があります。
しかし、四脚の場合、一脚が少しでも短くなると不安定になります。
脚を増やせば安定するかもしれませんが、その反面、どの脚が全体を支えているかは分かりにくくなります。
このように土台を支えるために最低限必要な三つの脚が、それぞれの脚を補うことで土台を安定させることが興味深く感じられます。
スリーコードで進行するブルースの安定感
音楽のブルースは3つのコード進行が基本になり、一つの曲が表現されていることはよく知られています。
ブルースはアフリカ系アメリカ人が日常をテーマにして作った曲です。多くの曲は短くも、聞く者の心を動かす力を秘めています。
アンケートの選択肢
アンケートなどの選択肢などでは、たいてい選択肢は3つになっています。
あなたはこれが好きですか?嫌いですか?どちらでもないですか?など、3つの選択肢です。
物事を分析するのには、3つの選択肢が基本にあることが分かります。
絵画を分析する方法
以上のようなこと以外にも、ある要素が3つに分かれることで成り立っているように見える物事は多くあると思います。
要素を2つに分けた場合は対立的になったり、4つに分けるだけで複雑すぎたりします。
いろいろな絵画の分析方法があると思いますが、ここでは1つの絵画の要素を3分割にして絵画を分析します。
絵画で構成される1つの要素を3分割する
絵画構成における明度配分の重要性
絵画を構成するときに無視できない要素の一つが画面全体における明度の配分です。
鑑賞者は絵画を見るとき、はじめに色相や彩度よりも明度を認識するといわれているので、絵画の第一印象には明度配分が強くかかわると考えられています。
鑑賞者は明度を単純化して認識する傾向があるので、明度を3つに分けてバランスを分析します。
絵画の明度を3つに分けてみよう!
下の絵はレオナルドダヴィンチの『モナリザ』です。
この絵を3つの明度に分けてみてください。
レオナルド・ダ・ヴィンチ『モナ・リザ』1503年-1519年頃
[ポプラ板に油彩,77cm×53cm,ルーブル美術館]
現代ではコンピューターに取り込めばすぐに白黒になるので、特定の絵画の明度を分析するのは簡単だと思います。
さらに下図のように、明確に、白、黒、中間色に分けると、絵画の構造が見えてきます。
このように明度を分けると、頭部や手の明度と隣接する明度とのコントラストが画面の中で強いことが分かります。
参考ページ
遠景・中景・近景を意識して分割する
つぎに遠景・中景・近景を分析します。
鑑賞者は絵画の遠近感を捉えるために、無意識に手前と奥を認識します。
手前と奥が感じ取れれば、漠然と手前と奥の中間にある中景を感じることになります。
この遠景と近景を明確に区分できると、必然的に中景が明確になるので、絵画の構造を理解しやすくなります。
絵画を遠景・中景・近景に分けてみよう!
下の絵は葛飾北斎の富岳三十六景の一枚『五百らかん寺さざゐどう』です。
この絵を遠景、中景、近景に分けてみます。
遠景、中景、近景に分けると、このようになります。
緑色が遠景、黄色が中景、赤色が近景です。
この絵を見たとき多くの人は遠くにある富士山を感じ取り、それを見ている人々を意識します。
あまり中景を意識してみる人はいないと思います。
中景に視線が向かない仕組みには、一点透視図法による消失点が富士山に重なるのも要因にあります。
この絵のように遠景、中景、近景を理解するには浮世絵を利用するのが分かりやすいと思います。
3つの色の配色で絵画を構成する
減法混色の場合、白以外では理論的に3原色(イエロー・シアン・マゼンタ)ですべての色彩は表現できます。
見えるがままに描こうとする写実絵画は、その理論で色が表現されていきます。
しかし印象派以降にみられる絵画の色彩は、写実的な絵画と比較すると、より色数が限定的になります。
この時、絵画に使用されている色を3つに分けるように分析してみると、絵画を支配している色や補助的な色など、画家が色に与えた役割が理解できるようになります。
例えば、メインの色に対して、補色(反対色)があり、ポイントの色(高彩度色など)が加わって3つの色で成り立っている場合などがあります。
絵画を3つの配色に分けて色の役割を考えてみよう!
下図はゴッホの『アルルのラングロワ橋と女性の洗濯』という絵です。
この絵にはゴッホの絵でよく見られる特徴的な色彩が使われています。
どのようにゴッホは色を使い分けているか3色に分けて考えてみてください。
ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ『アルルのラングロワ橋と女性の洗濯』1888年3月
この絵画にある主要な色は、黄色と青色です。
前面に押し出されている色は黄色で、それをサポートするように青色が使用されているように感じます。
青色は空や水の固有色を感じさせ、ゴッホ特有の色彩でありながら、現実世界から逸脱しないように色彩がコントロールされています。
青色と黄色は反対色の関係があるので対比的ですが、青色と黄色の混色による緑色が青色と黄色をつなぐので、対立的には見えません。
その緑色は植物の固有色を表現し、現実世界から逸脱しないように色彩がコントロールされます。
また、この絵画には青色と黄色以外にも、人物や船などにオレンジ色が使用されているのが分かります。
このオレンジ色は重要な色で青色の補色になります。
このオレンジ色が青色に混色されることで、青色の彩度が弱められて、絵画空間が調整されます。
そして彩度の高いオレンジ色や黒色を人物や船、橋などに限定的に使用することで、鑑賞者の視線を誘導し、絵画を引き締めています。
以上から、この絵画のメインカラーは黄色ですが、青色とオレンジ色が絵画空間をコントロールしていることが分かります。
もちろん、黄色、青色、オレンジ色だけでこの絵画が描かれているのではありません。
他にも黒や白が使用され、緑の補色として、赤色も使用されていると思います。
しかし、この絵画を構成するための重要な色は黄色と青色、オレンジ色になります。
補足ですが、青色と黄色の反対色の関係は、青い矢印のような位置関係で、色相環上で真逆ではないものの、反対方向に位置する色同士になります。
青色とオレンジ色の補色の関係は、赤い矢印のような色相環の中心を通る矢印の位置関係で、色相環上で真逆に位置した色同士になります。点・線・面で形態を認識する
つぎに点・線・面の特徴について理解して、形を分析しましょう。
通常、絵画に描かれる形は線で閉じられることで認識すると思います。
しかし、形を認識するには、必ず線で閉じられる必要はなく、離れている点や線によって、鑑賞者の視線を誘導し、見えない形を感じさせる場合もあります。
そのような視覚的に見えにくい形を抽出するために、絵画画面にある形を成り立たせる3つの要素である、点・線・面を意識的に分析するようにしましょう。
絵画にある点から形を探ってみよう!
この図には点が描かれていますが、点を結び合わせることで様々な形が思い浮かぶのではないでしょうか⁉
このように点を配置すると、点同士を結び合わせることで、見えない形が浮かび上がります。
しかし、単に点を配置するだけだと、鑑賞者が好き勝手に形を思い描いてしまうので、視線を誘導する必要があります。
絵画にある線から形を探ってみよう!
この図は点から延びた線が記されていて、その線を結び合わせることで三角形が見えてきます。
このように線は点と同じように形を示唆する作用があるうえ、さらに方向を示すことができるので、描かれていない形を感じさせることができます。
実際の絵画ではどのように点・線・面が応用されているか見てみましょう。
この絵画はセザンヌの『リンゴとオレンジのある静物』です。
この絵画には多くの三角形を示唆する点や線が描かれています。
それらを結び合わせると、下図のような感じに見えてきます。
面である正三角形と逆三角形が組み合わさって、複雑でありながら安定的な構図を実現していることが分かります。
また、赤い斜線同士と緑の斜線同士はそれぞれ呼応し、さらに絵画に複雑さと安定感を与えています。
このような点・線・面の見え方は個人差もあるので、自分なりの分析方法を見つけるとよいと思います。
参考ページ
絵画の構成要素をコントロールする-まとめ
以上のように、絵画の構成要素である明度、遠近感、色、形について分析してみました。
今回の分析した絵画の構成要素と分析手法は表のようになります。
絵画で構成される1つの要素を3分割する | |||
---|---|---|---|
構成要素 | 分析手法 | ||
明度 | 明るい、暗い、中間に明度を大きく3分割させて、明度配分による絵画の印象を分析する。 | ||
遠近感 | 遠景、中景、近景に分けて、絵画全体の空間の構造を探る。 | ||
色彩 | メインカラー、サブカラー、補色など色を3つの役割に分けて理解する。 | ||
形態 | 絵画画面にある点・線・面を意識的に分析して、見えない形を探る。 |
このように絵の描き方を求めず、絵を分析する能力によって絵画を客観的に読み解くことができれば、自分の描いている絵画の構成手法をコントロールすることができるようになるでしょう。
参考画像
- 葛飾北斎『五百らかん寺さざゐどう』1830年-1832年頃,木版画,26×38.7cm
- ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ『アルルのラングロワ橋と女性の洗濯』1888年3月,油彩,キャンバス,54×65cm,クレラー・ミュラー美術館
- セザンヌ『リンゴとオレンジのある静物』1895-1900年,油彩,キャンバス,73×92cm,オルセー美術館
2022年8月執筆公開