写真を見ながら絵画を描くこと
写真と絵画が持つ特性の違いを理解して、写真を見ながら絵画を描くことについて考えてみます。
このページの目次
写真を絵画にする難しさ
絵を描くことが好きな人のほとんどは写真をもとにして絵を描いたことがあると思います。
そのとき多くの人は、写真と同じように描けば、クオリティの高い絵が描けると考えているのですが、実際描くと、それは簡単なことでないことが分かります。
簡単ではない理由は、写真を絵画として描きなおそうとするとき、写真と絵画の特性の相違点を理解していないことにあります。
もし写真をもとに絵画を描こうとするならば、写真と絵画の特性の相違点について理解し、創作しなければなりません。
写真の特性
写真は光によって見える3次元の現実世界を客観的に写し取ります。
写し取られた写真は2次元なので、写し取られた世界の奥行きや質感を写真の内容以上に感じとるのは簡単ではありません。
そのため3次元の世界を2次元の世界に落とし込んだ写真を模写するだけでは、絵画として3次元の世界を表現することはできません。
しかし、そのような写真をもとに絵を描く人は、写真の通りに絵画を描くことで絵画が上達したような気になってしまいがちです 。
写真をもとにした絵画で、人を感動させるためには、写実的絵画における3次元の世界を表現する手法を理解する必要があります。
そこで、写実的絵画の特性について次に考えてみます。
絵画の特性
写実的な絵画は、さまざまな技法が施されることで、奥行きのある世界が構築されます。
例えば、透視図法や空気遠近法、スフマート、明暗法などルネサンス期に発展した写実的絵画を描く技法が駆使されます。
また、動きを与えるムーブマンやふくらみを感じさせるボリュームなどの手法も多用されます。
これらの技法や手法によって、2次元の平面に描かれた絵画から、写真からは感じ取れない立体的や臨場感を感じさせることができます。
以上のような絵画の特性を絵画制作に役立てることができない場合、写真をもとに絵を描いたとしても、3次元を感じさせる写実的な絵画を描くことはできません。
端的に言えば、写真を描いただけの絵画に終始するでしょう。
写真を見ながら絵画を描くことの是非
絵画の特性から写真を見て描くだけでは、写実的な絵画の能力を高めることはできません。
そのため写真を見ながら写実的な絵画を描くためには、実物のモチーフを観察することで描くことができる写実的な絵画の方法を学ばなければなりません。
その結果、写真をもとにして描いた絵画からでも、写真から感じられる以上の3次元の空間や臨場感を感じさせることが可能になります。
写真をもとにして描く有名な画家にはエドガー・ドガがいますが、写真をもとにして描いたとは思えないほど臨場感のある写実的な絵画を描いています。
それを可能にするのは卓越したデッサン力にあると考えられます。
下の絵画はドガが描いた『バレエ教室』で、写真をもとに描いた可能性があります。
ドガは多くの肖像写真をコレクションしていて、絵画制作で利用していたと考えられています。
ドガの絵画のクオリティはこの絵画のようにすべてが高いものなので、どの絵画で写真を利用したのか明確に判別するのは難しいと思います。
エドガー・ドガ『バレエ教室』1875年
[キャンバスに油彩,85×75cm,オルセー美術館]
人物モデルを見て描く絵画の立体感
下の写真のような実物のモデルを直接見ながら写実的に描く訓練をした人は、同じモデルが写った写真を見ながら立体的に描くことが可能になります。
しかし、写真に撮られた人物ばかりを描いてきた人では、立体的に感じさせるように人物を描くことは簡単ではないと思います。
もし、立体的な3次元の世界を表現したいのなら実際の人物を描くことができる絵画教室やクロッキー会へ参加することをおススメします。
イラストやマンガの資料としての写真
写実的な絵画の手法を知らない場合、写真をもとにした立体的な絵画を描くことは困難ですが、平面的な絵画を描くことは難しくありません。
そのため、平面的なイラストやマンガの資料として写真を利用することは大いに役立ちます。
立体感や平面性を強調するような絵画(イラスト、マンガ)の場合は、写真の平面性よりも平面化が行われるため、写真は大いに役立ちます。
人物クロッキーと写真
人物クロッキーを描くことで、人物を素早く描く能力が鍛えられますが、目的によってその能力の鍛え方にはいくつかあります。
油彩画や水彩画
油彩画や水彩画などを描くようなひとは、実際の人物を描くようにしましょう。
実際の人物と対峙することで、絵画制作で必要になる大きさや立体感、臨場感などを表現する能力が高められます。
マンガやアニメーション
マンガやアニメーションなどでは、イメージする人物像を平面的に即座に描く能力が重要視されます。
この能力は、写実的絵画を描く能力と同様に特殊な能力で、写実的絵画を描く能力以上の需要が社会的に見込まれます。
その能力を高めるためには、実際の人物を描きつつ、多くの人物写真やデッサン人形、可動フィギュアなどを利用して、さまざまなアングルの人物を描くことが求められます。
写真を見て絵画を描くメリットとデメリット
写真を見て絵画を描くメリット
- 多くの資料から絵画を描くことができる
- 写真は持ち運べるので、どこでも製作できる
- マンガなどの平面的な絵画で写真は利用しやすい
- 写真はスマホやパソコンに取り込んで加工できる
写真を見て絵画を描くデメリット
- 実物を見ないことで視覚以外の五感が損なわれやすい
- 写真を加工することができるスマホやパソコンに依存してしまう
- 写実的絵画を描くための技術、手法が育ちにくい
実物を見て絵画を描くメリットとデメリット
実物を見て絵画を描くメリット
- 五感を使って対象を感じることができる
- 臨場感のある絵画が描けるようになる
- 写実的な技法を習得しやすい
実物を見て絵画を描くデメリット
- スマホやパソコンなどに取り込んで加工することは難しい
- 写真のように多くの対象と向き合うことは難しい
- 対象物へ向き合うための移動が大変である
2022年8月執筆公開