デッサンと言う礎

デッサンにおける自分の形、心の形

デッサンを描くときの根源的な要素である自分の形、心の形を探り、アーティストの絵画を読み取ってみる。

造形を支える形の柱

絵画やデッサンにある自分の形、心の形についてゴッホの絵画を読み解いて理解し、造形を支える自分の形を組織的な構造を伴った流動的な形態へ変化させてみる。

画家にとってのリアルな絵画

ゴッホ『オーヴェール・シュール・オワーズの教会堂』

上図をごらん下さい。こちらはゴッホの最後の傑作「オーヴェール・シュール・オワーズの教会堂」です。
この絵から皆さんはどんな感想を抱くでしょうか?

濃厚な色彩、激しい形、ゆがんだ教会、ゴッホ独特の筆のタッチによってできたマチエール。そのようなものが一体になって、見るものに訴えてくる何かを私たちは感じ、驚嘆、感動、衝撃…色々な感情を呼び起こします。

この絵は、実物とは当然色も形もちがっているでしょう。実物とそっくりに描くことが重要でないことは明白なことではあります。では実物のモチーフ以上に、画家が画面に描写した形や色の根拠は一体どこにあるのでしょうか?

ゴッホより前に、前期印象派と呼ばれる人の中には、写実的な絵画が流行する中で、より現実的な空気感、雰囲気と言うものを画面に表現しようとした画家が多数現れています。

これはある意味、よりリアルな絵画を追求していく姿勢だと捉えることができます。外の世界のリアルさを追求した結果、写実的絵画の役目が美術史上では一旦終わりをつげます(詳細は割愛します)。その後、後期印象派と呼ばれるゴッホなどの画家が生まれます。

外の世界のリアルさではなく、自分の内側のリアルさを追求することになります。そして、個性的な絵画として誕生していくことになります。これは画家個人の内にある、リアルな精神の表象といえるでしょう。まだその時代では、そのような絵画、造形の考え方が世間には浸透せず理解されませんでした。その結果、画家にとってリアルでも、多くの人には理解しがたい絵画が多く誕生しました。

絵画のテーマとシステム

しかし、今ではゴッホのような絵画を理解できない人は少ないはずです。ここで絵画を成立させているものは何かを再度考えてみたいと思います。絵画を成立させるものとして大きな要素となるものはシステムと言えます。

システムと言うと機械的で肌に合わない方がいらっしゃるかもしれません。文章に例えれば文脈といえます。当然文脈にはテーマがなければ成り立ちません。そのように絵画にもテーマが必要になります。

つまり、写実派でも、印象派でも何らかのシステムの上に成立されています。宗教的な絵画などでは多くの人に同じような共感が生まれるようなシステムに必然的にならざるおえないでしょう。それは正に職人技です。それを思えば画家が工房をかまえ、弟子を持つことも当然なことかもしれません。

しかし、現在ではそのような工房は少なくなり、個性的な絵画を制作する工房や教育現場が増えています。そのよう個性は時代を反映したり、時代を創造する役割があるので、イラストやデザインにも要求されます。個性的な絵画は個性的なシステムがあるかどうかが重要ということになります。

そのシステムの中で核となる形、形体に注目して考えみます。ゴッホの絵を支える独特なタッチ、タッチによってできた画肌、そして、ゆがめられていく教会には、どのような個性的なシステムがあるのか探りたいと思います。

あなただけの形を思索する

自分だけの形を理解しデッサンに反映させるにはどうすればいいか。自分が潜在的に持つ形態をさぐってみる。

自分の形を追求するために

ゴッホの絵画を見ると、ゴッホの絵画には特徴的なタッチが見てとれることと思います。そこで、あなたはどんな形の持ち主なのか探ってほしいと思います。そして、その形を理解し、育んで頂きたいと思います。あなたの形は筆のタッチから全体の雰囲気までに及んでいくことになります。

特徴的なタッチ、確立されたタッチは、初めて見た絵でも、あなたが知っている画家のものであれば誰が描いたかを言い当てることが容易なように、画家のタッチ、形は名刺代わりみたいなものです。簡単に真似できるものではないのが自分の形です。

それでは、あなたの形を理解するにはどのようにすればよいでしょうか?それは、多くのデッサンを制作することでしか、めぐりあう方法はないといえます。

しかし、それでも自分の形がよくわからない人や、あらゆるデッサンの要素、技法による混乱から、形の理解に到達する事が困難な人はいるでしょう。そこで、あなたが好きな画家の絵を模写することであなたの形に近づくことができます。あなたが好きな画家、つまり共感できる絵画はあなたに近い形を有していることがあるのです。

他にあなたの形に近づくために、あなたのテーマを探ってみることです。テーマを表現するために形を研究してみることです。水と言うテーマならば、あなたならではの水らしい形を追求してみてください。

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様々な試行錯誤により、あなた独自の形が見えてくるでしょう。そして、それは心の形ともいうべきものになるでしょう。実際には色彩を伴ってくると思いますが、ここでは割愛しております。あなたの絵画、造形物を見た時に、大きな特徴となって認識されていく、あなたの分身ともいえる大事なものです。

自分の形を客観的に把握する

自分の形の特徴を探るために細かく要素別に分け、特徴を追求してみましょう。

下のように形には様々な特徴があります。あなたの形の特徴をチェックしてみましょう。

感覚器官 要素 特徴
視覚 明度 明るい 中間 暗い
  輝き 輝く 中間 鈍い
  明瞭度 はっきり 中間 どんより
  透明度 透明 中間 不透明
  鋭利度 鋭利 中間 滑らか
  立体感 膨らんでいる 平ら 凹んでいる
         
聴覚 速度 早い 中間 遅い
  方向 均等 中間 分散
  音量 大きい なし 小さい
  角度 上下 停滞 左右
         
嗅覚 鮮度 新鮮 なし 腐敗
  距離 近い 中間 遠い
  具体的なにおい      
         
味覚 濃度 濃い なし 薄い
  甘辛さ 甘い なし 辛い
  うまさ うまい なし まずい
         
触覚 硬軟 硬い 中間 軟らかい
  粘着度 粘着質 中間 淡白
  温度 熱い 中間 冷たい
  表面 ざらざら 中間 すべすべ

他にも様々な感覚的な要素がありますので、さがしてみて下さい。

形の流動性と発展

私たちにある心の形は状況によって変化します。自分の形態である柱を認識してデッサンでは流動的に表現させてみましょう。

形を真似るな盗み取れ!

さて、あなた独自の形の追求によって、あなたらしさが生まれてきたでしょうか?

おそらく、この試行錯誤によって、形のみならず、独自な技法が生まれた方がいるのではないでしょうか? そのような人は、今回、形の追及によって生まれた技法は自分のものであることが体感できたのではないかと思います。

ただ単に人から真似た技法は、美しい画肌や色味が生まれたとしても、あなた自身の形の反映ではなければ、それはつまらないものになっていく事でしょう。もっと言えば時間の無駄ですのでやめてしまいましょう。

まだ、あなたの好きな絵を模写していた方がよろしいかと思います。模写する中で、自分らしいこだわりの形が発見できる例は少なくありません。その時の意識は真似をすることではなく、盗むという作業になるかもしれません。あくまでも、あなたの形のために試行錯誤した技法こそがあなたのものへと発展していくことでしょう。

基本的な形態の要素を把握する

形は流動的に変化します。独特なあなた自身の要素を持つその形は、色々と変幻自在に画面で形を変えていきます。

もしあなたのデッサンの形が油粘土のような性質の形ならどうでしょう。実際に油粘土という限られた素材で様々なものを表現すると面白いかもしれません。

この場合は、油粘土と言う独特の粘りや硬さ、引きちぎった時の形状、弾力などが基本的な形態の要素になります。その要素を理解して様々なものを表現すれば、この素材の持つ表現の幅が見えてきます。

同じようにデッサンでもあなた自身の形の表現の幅が見えてくることでしょう。表現の幅は限界ではありませんが、今のあなたの限界です。

この場合、粘土では粘土と言う素材の性質を利用した実験であり、実際では、粘土で表現する時、粘土が粘土らしく見えることは、あまり、表現といえるものではないでしょう。

同じようにデッサンでは、鉛筆や木炭の線であることが明白に画面から浮いて見えることは表現には当てはまらないでしょう。私たちはある要素を持つ道具であらたな性質、要素を生み出していることをあらためて認識させられます。

よく、絵の教則本にガラスはこのように描く、水はこのように描く、花はこのように描くといった単体での描き方をあたかも当然のように教えているものがあります。

しかし、実際に同じ画面のなかで描写した時は、ガラスよりも、花の方が硬く見えたり、水の方がガラスらしくなってしまったりして、めちゃめちゃになることがあるでしょう。

物の性質は画面の中で相対的にどのように見えているのかによってお互いが活かされていきます。黒いものがあるから白いものがひきたったり、硬いものがあればこそ、軟らかいものがひきたったりするのです。これは基本的なことですが技法にとらわれたり、自分を失っているときに忘れがちになることです。

形態変化の要素-01形態変化の要素-02形態変化の要素-03形態変化の要素-04形態変化の要素-05

再び、自分の形を理解する

今、捜し求めている形にノーマルな形があるとしましょう。その形には、あなた独自の性質、性格があります。その性質性格が、あるモチーフを表現する時、形を変えていくことでしょう。

時には硬くなり、軟らかくなり、透明性が増し、消えかかったり、色々とあなたの形の範疇で形状を流動的に変化させていくことでしょう。

そして、画面の文脈の中で控えめに見えたり、存在を主張したりしていきます。あくまでも、あなたの形の変化であることがみてとれることが大切でしょう。それは独特の画肌になります。あなたしかできない形は、新しい技法を生み出すでしょう。それは、あなたと一体となります。

また、ゴッホが教会を歪ませたように、あなたの心の形は、あるものを歪ませずにはいられなくなるかも知れません。そこには、遠近法の入り込む余地などないことかもしれません。当然、画面全体は、あなた独自の文脈の中ですべてがある役目を持って迫ってくることでしょう。

デッサン描き方と基礎技法-目次