絵画のデフォルメとは
絵画上の形態に意図的な変化を与えることをデフォルメと呼ぶことがあります。それは対象を制作者のイメージや美意識に合致するように変化させることです。
このページの目次
デフォルメとは
デフォルメは絵画や彫刻などで対象の形を変化・歪曲させて表現することです。
このデフォルメはフランス語の動詞で、名詞ではデフォルマシオンと呼びます。
デフォルメ=(仏: déformer、動詞)
デフォルマシオン=(仏: déformation、名詞)
デフォルメの基本を理解できるサイト
デフォルメに見られる制作者の美意識
現実の世界、対象を変形させたり、歪曲させるデフォルメは制作者の美意識を反映します。
制作者の美意識である主観に対象の形態が強く委ねられる場合、絵画や彫刻は写実的な要素が失われたり、非現実的な空間を形成する場合があります。
デフォルメへのアプローチ
絵画をデフォルメするとき、大きく2つのアプローチに分けることができます。
1つは客観性を重視してデフォルメをする場合、もう1つは主観性を重視してデフォルメをする場合になります。
この2つのデフォルメへのアプローチの手法を考えてみましょう。
客観性が重視されるデフォルメ
現実世界を写実的に描く場合、客観性を重視する意識が強く働きます。そのため写実主義的表現者においてはデフォルメに対する意識が低いと捉えられる場合があります。
しかし、写実主義においても実際の対象の形態をリアルで理想的な絵画に近づけるために、モチーフの配置や大きさを制作者の美意識によって変化させることはよくあります。
風景画であれば、雲や波の形状を変化させるデフォルメは制作者の意図で簡単に行うことができます。
とはいえ、対象物を雲や波のように、やたらにデフォルメしたら絵画の客観性は損なわれます。
そのため制作者の美意識や制作意図を現実世界の対象物から表現するために、理想に近い対象物を現実世界から探す取材が重要になります。
そして、対象をさまざまな方角、大きさ、時間、光によってスケッチすることで、対象の本質を見出したり、構成手法を吟味したりして、制作意図を明確にする必要があります。
その結果、制作の意図に合致させるように、対象が移動されたり、変形されるデフォルメが行われる場合があります。
アンドリュー・ワイエスのデフォルメ
下図はリアリズムの画家として知られるアンドリュー・ワイエスの《マガの娘》という絵画です。
この絵画は写実的なので形態の歪曲や変形を発見することは難しいと思います。
しかし、構図という観点から絵画を見直したとき、非常に計算された対象の配置と衣装のこだわりを理解することができます。
制作者による主観的な対象の移動や変形が認められれば、その絵画はデフォルメが施されている考えることができます。
例えば腕による線の向きは頭部を通り大きな三角形を形成し、帽子の端から肩に向かう線は逆三角形の形態をつくっていることが構図の分析によって発見することができます。
この絵画の詳しい解説については別のページ[アンドリュー・ワイエスの構図を分析する ]をご覧ください。
主観性が重視されるデフォルメ
制作者の主観的な美意識が強い絵画制作では、制作者の主観的で特徴的な形態に合致するように、現実世界の形態が流動的に変化して表現されます。
そのため主観性が強い絵画制作では、個性的で独創的な作品が生まれやすくなります。
例えば独自性の強いマンガは、制作者の主観性の強さを理解することができます。
マンガは絵を見れば作者が分かるように、現実世界の形態は制作者の主観的な意識によって絵画の中に変形されて組み込まれていることが理解できます。
モディリアーニのデフォルメ
下図はエコール・ド・パリ(パリ派)で知られるモディリアーニの《マリオ・ヴァルヴォーリ》という絵画です。
この絵画は、非常に個性的でモディリアーニが描いた絵とわかるデフォルメが施されています。
例えば人体は卵型の球体を積み重ねたような構造があり、背景は直線的で人物と対比させています。
この絵画の詳しい解説については別のページ[モディリアーニの構図を分析する ]をご覧ください。
デフォルメに見られる意識
絵画は客観性が重視されても、主観性が重視されても、制作者による主観的な美意識によってデフォルメが施されていると考えることができます。
そのとき客観性が重視されれば現実的で理想的な形態が表現され、主観性が重視されれば個性的な形態が表現される傾向があります。
そして何よりもデフォルメの作用に見られる絵画上の形態の移動、変形、省略の根源には、制作者のテーマ、構図、構成手法が基礎にあります。
そのため絵画にあるデフォルメを理解するには、制作者のテーマと構図、構成手法を理解することが重要です。
2021年4月6日加筆
2021年3月2日執筆公開