明度のコントラストによる明暗の秩序
絵画にある明度のコントラスト(明度差)を分析して、明暗法につながる描き方を身につけましょう。
絵画の明度とコントラストを見る
下の画像は、ニューヨーク「メトロポリタン美術館」に展示されているギュスターヴ・クールベの自画像です。タイトルは『The Desperate Man(必死の男)』です。
この絵画は、かなりコントラスト(明度差) がはっきりしている絵です。ギュスターヴ・クールベの絵の特徴でもあります。この特徴により、写実的な絵がより力を増しています。
私たちは、絵にしようとする対象物を描きすすめていくために、絵画画面に秩序を生む、なんらかの要素を利用する必要があります。
その秩序を生む要素として明度の明暗対比を利用したコントラストがあります。この要素を利用することで絵画やデッサンに秩序がもたらされます。
クールベの絵画に見られるように、明度のコントラストには強弱や濃淡があることが分かります。これらにより現実的な絵画空間が形成されます。この三次元を引き出す手法をキアロスクーロ(明暗法)と呼ぶことがあります。
ここでは対象の明度のコントラストを大きく捉えることで、描かれたものに秩序が生まれることを理解してほしいと思います。
上の絵画は明度のコントラストが秩序づけられることで、写実的な作品として完成しています。この明度のコントラストをクールベがどのように秩序づけたのかを疑似体験してみます。
はじめに、この絵を黒、白、中間色に大きく三分割に分けてみます。
大きく明度を3つに分けることで絵の存在感は強くなります。
分けていく際、目を細めて絵を見ると、この絵の大きなコントラストを認識することができます。
明度のコントラストと絵画の秩序
明度を分割する際、顔を中間色にされる場合もあると思います。 わたしは顔を中間色にすると背景と同化するので、それを避けるため白にしています。
この状態は、ほぼ何も描かれていない状態ですが、明度差を大きく3つに分けることで力強さが生まれ認識しやすくなります。
このままでは、まだ何が描かれているかわかりませんので、更に明度差をつくっていきたいと思います。
描き進めるうえでは明度差を確認しながら段階的に分けていけばよいと思います。その際、大きく重要な個所から段階的に明度を分割していきましょう。
通常、絵画を制作するときは、エスキースの段階でここまでの作業をモチーフを見ながら行います。そのとき明度のコントラストが生むバランスやプロポーションが気に入らない場合は躊躇なく構図を変更するようにしましょう。
白、黒、中間色をそれぞれ3つに分けていくと、ニュアンスの違う明度が9段階になり、立体感、動きなどが生まれ、最初に描いた明度のバランスとプロポーションを維持したまま複雑になります。
このように、明度を追っていくと絵になることがわかると思います。
この段階で明度が最初に分けた3段階よりも暗くなったり、白くなったりして、最初に分割した明度差を逸脱しますが、最初に分けた3段階の明度差が重要です。
つまり、最初に3つに大きく分けておくことで画面に秩序が生まれ、認識力が増します。それはさらに描きこむための土台になります。この感覚を身につけることがまず重要なことです。
この疑似体験はベタ塗りなので、その点が表現できませんが、黒の下地にある中間色と白の下地にある中間色は違う色を表現することができます。
たとえば、黒が土台となった中間色と白、白が土台となった中間色と黒、中間色が土台となった白と黒を、それぞれニュアンスの違う色(明度)として描くことができれば、秩序のある絵画が表現できます。
このベタ塗りでも、それなりの雰囲気を生み出すことができるので、鉛筆や木炭などで描けば、幅の広い明度のコントラストを表現することができます。
この感覚が身につけば、わざわざ明度を大きく3つに分ける必要もなく、全体のコントラストのバランスを維持したまま、画面の中の明度を部分的に当てはめていくことも可能になります。
音楽でいえば絶対音感のように絶対色感というものが身に付きます。
アンドリュー・ワイエスの絵画にある明度とコントラスト
ここではアンドリュー・ワイエスの絵画を参考にして、クールベで分析した明度とコントラストについて簡単に検証します。
上の画像は、アンドリュー・ワイエスの絵画です。この絵画はギュスターブ・クールベと同様に明度のコントラスト(明度の差) がはっきりしているので、認識しやすく鑑賞者をひきつけます。
その要因は白と黒と中間色を大きく明度差をつけて3分割していることにあります。
さらに分割されている内側を見ると、分割された大きな明度差は崩されることなく細かな部分が描かれています。
写実的なうえに繊細で秩序のある力強い描写を可能にしているのは、大きく明度を3つに分けて、全体のバランスとプロポーションを形成していることにあります。
先ほどと同じように、この絵を参考にして黒と白、中間色に分けて、明度とコントラストを絵画上でどのようにコントロールすればよいか疑似体験してみます。
明度のコントラストを考えるとき、はじめに明度差を3つに分けるのが基本です。この明度差が土台となり絵画が認識しやすくなります。
このとき画面上に白いものを白く、黒いものを黒く、中間色は中間色に大きくメリハリをつけて分けるようにします。
この絵では顔を背景と同じ灰色にしました。クールベでの疑似体験では顔を白にして背景と同化することを避けましたが、この絵では背景との関係を考慮せず灰色にしました。(顔を灰色にするか白にするかどちらが良かったか考えてみてください。)
このままでは、まだ何が描かれているかわからないので、更に明度差をつくっていきます。
白、黒、中間色をそれぞれ3つに分けていくと、ニュアンスの違う明度が9段階になり、立体感、動きなどが生まれ、最初に描いた明度のバランスとプロポーションを維持したまま複雑になります。
このような明度差を土台にして、もう数段階ほど明度差をつくりながら、細部を描写していくと写実的な絵ができると思います。
単に明度差を追うだけでも魅力的な絵画やイラストを表現できると思います。
アンドリュー・ワイエスとは
アンドリュー・ワイエス(Andrew Wyeth,1917年 - 2009年)は、1917年7月12日にペンシルベニア州フィラデルフィア郊外のチャッズ・フォードで誕生し、2009年1月16日、ペンシルベニア州のチャッズ・フォードにて逝去しています。
アメリカン・リアリズムの代表的な画家で、彼の描いたデッサンや水彩画、テンペラ画を参考する画家は多いと思います。
アンドリュー・ワイエスの制作は、自宅のある生地チャッズ・フォードと、別荘のあるメーン州クッシングの場所を中心に行われました。彼のテーマは、この土地に密着したものです。
明度のコントラストにある明暗の幅
ここで取り上げた2枚の絵画はコントラストにある明暗の幅が大きいので、見るものには認識しやすいと思います。
このような明暗の幅が大きいコントラストをハイ・コントラストといいます。
反対に明暗の幅が小さいコントラストはロー・コントラストといいます。
ロー・コントラストの絵画は意図的に明暗の幅を小さくして描かれています。
明度のコントラストについての参考ページ