絵画における構成とは?
はじめに絵画を構成するための手法として、構成美の要素を覚えましょう。
絵画の構成
絵画における構成は、テーマ(目的)を表現するために絵画の要素(構成要素)をさまざまに組み合わせることです。
構成するために必要な絵画の要素は色彩、形態、明暗、動勢、マチエール、遠近法など絵画を成り立たせるすべての要素になります。
構成の方法を設定するためには、はじめに絵画のテーマや目的を明確にしなければなりません。
構成美を感じさせる構成手法8+2(構成美の要素)
一般的に構成美の要素として知られているいくつかの構成手法には主に以下のようなものがあります。
1から8までの構成美の要素は中学校や高校などで教わることが多いようです。
9と10も重要な構成美の要素なので覚えるとよいと思います。
中学校や高校などで教わる構成美の要素
- シンメトリー(対称)…中心線を軸に左右や上下が対称となる構成です。統一感や安定感を感じさせるが、動きは感じられません。非対称のことをアンシンメトリーと呼びます。
- リズム(律動)…リズミカルに形や色を配置する構成です。同じ形でも大きさや配置された距離の違いでリズミカルに感じさせることができます。
- リピテーション(繰り返し)…パターンを持たせるなどした一つの形や一定の形のグループを画面に繰り返していく構成です。
- グラデーション(諧調)…色相や明度、形態などが一定の割合で連続的に変化する構成です。
- コントラスト(対比・対立)…形や色にある正反対の性質同士を組み合わせ、対立させて強め合う構成です。
- ムーブメント(動勢・動き)…動きを感じさせる構成です。
- アクセント(強調)…画面の中の一部を形や色の変化によって強調する構成です。
- バランス(つり合い)…形や色の大きさや配置によって、画面の中のつり合いを保たせる構成です。
覚えておくと得する構成美の要素
- プロポーション(比率・割合)…ある形態の縦や横方向への比率や割合に一定の法則性がある構成です。
- グルーピング(まとまり)…ある形の集積やつながりによって、まとまりのある新たな形を感じさせる構成です。
構成美の要素の扱い方
さまざまな構成美の要素がありますが、一つの作品を制作するために、すべてを取り入れる必要はありません。
あなたが制作するテーマや目的を実現させるために、的確に構成美の要素を取り入れましょう。
デザインの構成
絵画の構成をさらに理解するために、デザインの観点から構成について考えてみたいと思います。
下記にあるデザインの構成を説明している文章を読んでみてください。
構成とは地面の上に一個の石がある。水に流され運ばれてきたとか、火山の噴火で吹き飛ばされてきたといった状況であれば、自然であって構成とはいわない。その石を拾って、自分の好きな場所に置いたとすれば、それは立派に構成と呼べる。つまり、構成とは人が意識的にものの配列を行うことである。構成の原点は意志を持って、物を置くことである。…中略…構成の発生的観点からすれば<ある目的のためにある素材を組み立てる>ことが構成である。従って、平面、立体、空間などそれぞれの構成があることになる。組み立てる素材を構成エレメントと呼んでいる。構成と呼ぶには条件がある。その条件とは(1)何のための構成か目的がある、(2)構成エレメントがある、(3)構成する技術がある、という3つである。目的は意志という言葉に置き換えてもよい。しかし、条件のいずれが欠けても構成は成り立たない。構成を計画的に行えば、それがデザインである。
【視覚表現コンピュータ時代のベーシックデザインより引用】
この文章はデザインの構成の説明としてわかりやすいと思います。
ほとんど絵画とデザインの構成は同様ですが、大きな違いは2つあると思います。
一つは、デザインは目的やテーマが明確ですが、絵画は具象画以外にも抽象的なイメージの具現化がテーマ、目的になる場合があります。
もう一つは、絵画はデザインと比較すれば目的やテーマ、制作期限の自由度が高く、デザインほど計画的ではない場合があることです。
この2つの特徴はデザインの方が利用価値が限定されるうえ量産されること、時代のニーズに合致しなければならないことにその要因があると思います。
時代的区分による絵画構成と特徴
自由度の高い絵画は時代ごとに絵画構成に特徴があるので、その点から構成についてさらに考えてみます。
ルネサンス以前から見られる図像学的な絵画構成
美術の形象にある寓意的、象徴的な意味を解明する学問をイコノグラフィー、または図像学と呼びます。
ルネサンス以前からキリスト教や古代神話の美術はテーマや目的によって寓意的、象徴的に構成されています。
この絵画はシモーネ・マルティーニが1333年に描いた『受胎告知』です。ウフィツィ美術館に収蔵されています。
『受胎告知』は乙女マリアが聖霊によって神の子を身ごもったことを天使ガブリエルから知る瞬間で、キリスト教美術にとって重要なテーマの一つです。
このテーマを絵画として描くとき約束事があります。
例えば、処女であるマリアは必ず聖なる色である青に赤が配している衣装をまとわせる必要があります。そして処女はユリの花で表現され、天使には羽があります。これ以外にも多くの約束があります。
このように『受胎告知』のような宗教絵画は、約束事によって決められている図像が構成されています。
ルネサンス以降に見られる写実的な絵画構成
ルネサンス以降では、絵画は見えるものを再現する写実的な世界(イリュージョン)を表現するようになります。
見える世界を再現するために線遠近法、明暗法で描かれ、絵画空間は無限の奥行きが感じられるようになります。
この絵画はルネサンス期のイタリア人レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた『白貂(しろてん)を抱く貴婦人』です。1489年から1490年ごろにかけて描いたと考えられています。ポーランドのクラクフにある国立美術館に所蔵されています。
この絵はキアロスクーロという明暗法で写実的に描かれています。ルネサンス期以後はこのように現実味のあるリアルな絵画が盛んに描かれています。
この動物は白貂ではなくフェレットらしいです。
セザンヌ以降に見られる平面的な絵画構成
セザンヌ以降ではテーマや目的が個性的になり、現実世界を再現することから離れていきます。
そして独自の絵画空間が目指されるようになると、色彩や形態は自由に構成され、絵画空間は平面的になります。
この絵画はポール・セザンヌによって描かれた『サント・ヴィクトワール山』です。フィラデルフィア美術館に所蔵されています。
この絵には明暗法や線遠近法という写実的に描くための造形要素はありません。
形態と色彩はセザンヌ独自の構成手法によって構築され、平面的な絵画を目指す意図が感じられます。
現代の絵画構成
現代の絵画は、図像学的な構成手法、写実的な構成手法、平面的な構成手法など多くの構成手法が自由に利用されていて、多様なテーマが展開されています。
構成と構図の違い
英語でcompositionと訳すことができる構成と構図ですが、構成と構図の使い方には違いが認められます。
絵画における「構成」は、制作のための造形手法をテーマに沿って設定することでした。
それに対して「構図」は、絵画に見られる分割された図形や造形要素の関係性を指して使用されます。
絵画に見られる図形は、モチーフの形状が大きく関わるので、モチーフの選択や画面へ配置の仕方は、絵画のテーマを伝えるために配慮する必要があります。
構図はモチーフ単体で形成される場合もありますが、モチーフが複合的に絡み合って形成されることもあります。
また構図となる図形や造形要素は、モチーフに内在している点・線・面、動勢、明度、色彩などが複雑に関係して形成され、空間やリズム、バランス、プロポーションを絵画上に形成します。