ボリュームのニュアンスを描く
ボリュームを表現するとき、明度や重さ質感などの要素も意識しなければなりません。デッサンではそれらを同時に描くことが要求されますがコツやポイントが分かれば難しいことではありません。
ボリュームは造形における一つの要素
ボリュームを表現するために、まずモチーフ(対象物)を観察しましょう。そこには、モチーフの様々な要素や質感が見えてきます。
色、ふくらみ、重さ、強さ、硬さ、味、におい、明るさ、鮮やかさ、光、個人的な感情などです。
色んな要素が見えてきて、混乱することが表現の妨げになりますが、 まずは体積、容積だけを表現してみることが簡単だと思います。
決してボリュームを表現することが絵画、造形物において重要であるとは限りません。それは、表現しようとするテーマ、雰囲気などの狙いによるということです。
ふくらみを体感する
今回ボリュームを表現するため、何か単純なモチーフを用意してください。単純なものであればボールなどの球体がいいと思います。
その用意されたモチーフの 体積、容積を感じさせるように、まず平面である画面(画用紙)にふくらみを与えてデッサンしてみましょう。
様々な要素を感じるでしょうけれども、今回はそれを無視して球体に見られる膨らんだ立体感を画面に与えてください。
ボリュームを表現するために考えるべき様々な要素
ボリュームを描くときはマッスに求められる絵画全体における相当量の"まとまり"を考慮するべきですが、ここではボリュームの表現描写に限定して考えてみます。
図1を見てください。これは、線描によってふくらみを意識して描いたものです。 描こうとしている狙いによっては、このようなデッサンでも面白い表現ができるかもしれません。
鉛筆、木炭を寝かせて描いた時はこれほど線を重ねなくても、同じような表現ができます。その時は、粘土で立体を表現しているような感覚でデッサンをしていきます。
しかし図1の状態では、感覚に任せた工夫のない表現に終始してしまいます。そこで、更にこの図1のデッサンに違う要素を組み込もうと思います。
図2を見てください。多少、違う雰囲気になってきました。これは、光源を意識して修正を加えたものです。先ほどよりも立体感が少しばかり増したようです。
デッサンでは、練り消しゴムなどで描くように消しながら明暗法を意識して図1から図2へ移行することができます。
ここで留意したいことは、明暗法以上にボリュームを意識した描写は画面へ量感やふくらみ、質感を強く感じさせることができる点です。
このような描写は同時に明暗法を考慮した表現を可能にするのですが、初心者にはかなりハードルが高くなります。そのため、はじめはボリュームの要素を優先的に表現し、最終的に明暗の調整を行うとよいと思います。
ふくらますという行為は、様々なモチーフに対して、モチーフに適応した描き方が必要になります。細い線だけで様々なモチーフのボリュームを表現したとき、質感が似たものになりかねないからです。
そうならないために、質感に対して、描く線の太さやエッジを研究しなければなりません。
画面全体のマッスを考慮して、画面の中にあるモチーフの相対的な明度差も意識しなければなりません。画面におさめようとするモチーフの明度を意識するには、黒いものは黒く、白いものは白く表現することが基本になります。
ただ、デッサンを描く狙いによっては黒いものを白く描く場合もあると思います。
例えば、モチーフ自体の明度よりも画面全体における明度の構成を優先させる場合などがあります。
また、ボリュームの表現描写がどれだけ画面の中で必要なのかを考慮する必要があります。
つまり、画面全体におけるマッスの関係からボリュームの表現方法を調節していかなければなりません。
ボリュームを表現する中で意識すること
次に独自の表現を完成させるために、ボリュームの膨らみや塊にプラスして表現したいニュアンスを組み込んでみたいと思います。
例えばモチーフが柔らかいなら、柔らかい表現で描写してみることです。そして、前述したように明度を明るくしたいなら、モチーフの明度を意識してデッサンすることも大切です。
軟らかく明るい明度でボリュームを表現する場合、明度を無視してボリュームを優先して描き、後から明度を調整することも可能だと思います。
光・空気・重量・質感などの要素や表現の狙いを描写に組み込んで、独自のデッサンの表現、方法を開発してください。
参考として、図3のような単純な線でも球体の立体感を感じさせることが出来ます。 表現したいものを一度単純な表現で突き詰めたところに何かヒントがあるかもしれません。