絵画におけるマチエールとは?
絵画では画肌に見られる肌合いや光沢の状態を指してマチエールといいます。デッサンにおける基底材と描画材の選択だけでもマチエールに変化を与えます。
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マチエールとは
マチエールは「材料」や「物質」を意味するフランス語で、英語ではマテリアルといいます。絵画では画肌、絵肌に見られる肌合いや光沢の状態を指してマチエールといいます。
マチエールは基底材(紙やキャンバス)、描画材(鉛筆や絵具)の性質が強く影響されるので、絵画の材料に深く関わります。
例えば基底材や描画材の選択の仕方や、それらの材料による描き方がマチエールの状態に変化を与えます。
基底材をパネルにしたり、絵具に砂を混ぜたり、絵具を引っ掻いたり、たらしたりすることはマチエールに変化を与えているということができます。
デッサンも同様に基底材を画用紙からケント紙へ変えたり、描画材を鉛筆から木炭へ変更することでマチエールに変化を与えられます。
このようにマチエールは物質と描画行為が合わさって画面上で生じます。
マチエールと同様の言葉でテクスチュアがあります。テクスチュアは物質にある組織的に構造化された固有の色彩と触覚的な材質感を指しています。
ここでは言葉の混乱を避けるためにテクスチュアではなくマチエールで統一して話します。
マチエールで絵画のイリュージョンを起こす
絵画は何らかの材料、物質によってできています。
絵画を制作するとき意識、無意識、意図的、必然、偶然などの描写行為が行われるとマチエールに変化を与えることができます。
鑑賞者の感覚にはたらきかける絵画としての表象作用を実現するためには、画面全体に流動的な変化のあるマチエールが求められます。
それは作者の個性が色彩の要素と共に最もあらわれ、絵画全体としてある固有の質感を与えることになります。
一つの描写は他に描かれている描写へ作用して相対的に影響していき、絵画の画面の中で意味をもち始めていきます。
硬い描写と軟らかい描写は、それぞれの質感を強調させ、黒く透明感のある箇所は白く抵抗感のある箇所をお互いに強調して質感と空間を生んでいきます。
このような作用が絵画の中で組織的に構造化されると、マチエールは絵画として成立していきます。これをイリュージョンと呼ぶことがあります。
古典的な絵画でのイリュージョンは、錯覚や幻想を感じさせる3次元の絵画空間を実現させます。そのとき基底材や描画材の物質は絵画のマチエールとして質感や空間を成立させています。古典絵画は現代絵画と比較すれば薄いマチエールになる傾向があります。
抽象的な絵画でのイリュージョンは現実世界の再現から離れていき、身体的な描写などに見られる物質性や精神性が重視されます。視覚的には現実的ではない傾向があり、絵画の複雑な構造の中で統一感のある独自の絵画空間が目指されていきます。このとき無意識や偶然性が意識や必然性よりも優位な描写になり、凹凸のある物質性の強い厚いマチエールの画面になる傾向があります。