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モディリアーニの構図を分析する

モディリアーニの絵画の構図を分析します。エコール・ド・パリで有名なモディリアーニの絵画は他の絵画と比較すれば平面的です。この平面的な絵画を描くモディリアーニの絵画の魅力は、構図を分析することで発見することができます。

モディリアーニ《マリオ・ヴァルヴォーリ》

マリオ・ヴァルヴォーリの肖像画は、1919年にイタリアの画家アメデオ・モディリアーニによって描かれた油彩画で、大きさは116×73cmになります。バーゼルのフランツ・マイヤー・コレクションの一作品です。

モディリアーニ《マリオ・ヴァルヴォーリ》
モディリアーニ《マリオ・ヴァルヴォーリ》

モディリアーニはエコール・ド・パリの一人として知られている画家です。エコール・ド・パリは20世紀前半フランスのパリで活躍した叙情性の強い絵画作品を制作した画家たちを指しています。

エコール・ド・パリに属する画家は、特別な理念や美学に支えられる絵画運動や絵画様式に加わらずに、独自の表現を追及する傾向がありました。

このような独自性の強い絵画で、人気のある絵画作品からは、伝統的な絵画作品にはない構図が発見され、現代絵画で利用されることが多々あります。

モディリアーニ《マリオ・ヴァルヴォーリ》の構図を分析する

モディリアーニ《マリオ・ヴァルヴォーリ》構図の分析
モディリアーニ《マリオ・ヴァルヴォーリ》構図の分析

アメディオ・モディリアーニ『マリオ・ヴァルヴォーリ』の作品は、画面中央からわずかに左にずれて男性が椅子に座り、頭部を左に傾けて、視線を正面へ向けて微笑んでいます。背景と人物が描かれる面積の大きさは同じくらいで、人物は膝下から頭部まで描かれています。

構図と空間的処理

単純化した線や図形で構図を分析すると、頭部から衣装を結んだ線(赤色線)が三角構図をつくり人物に安定感を与えています。また背景の直線(緑線)は図と地を強く結びつけ、絵画全体に安定感を与えています。

人物全体や腕と脚部の緩やかなカーブのS字(桃色線)や円形が積み重なったような8の字(青色線)は、柔らかな動勢とリズムを感じさせ、それらの曲線は背景の直線が対比となり際立っています。

絵画画面を平面的にする要因として、まず取り上げたいのは、斜めに置かれる椅子が逆遠近法(橙色線)で描かれていることで奥行きを感じさせていないことです。そのため椅子に斜めに座って正面を向く人物の体の右側が奥へ向かわないので、絵画の平面性が強調されています。

そして人物の骨格や筋肉は意識されず、光による明暗法や線遠近法による奥行きの表現方法は見られないので画面は更に平面性を強調します。

画面全体は平面的ですが、斜めの線(黄色線)に左から右へ向かう奥行きを感じさせる上下遠近法が確認できます。また椅子の背もたれや壁面は右側に比べ左側に彩度の強い色彩を多く使い、左から右への奥行きを感じさせる色彩遠近法も認められます。それらの効果から平面的な画面の中でも奥行きのある心地よい空間が表現されています。

構図とモチーフの視認性

この絵画は縁取りによる線やグラデーションが椅子や衣装、顔、手の形状とディテールをつくっていて、それぞれのモチーフを強調します。座面と背もたれは同系色であることによって座椅子全体を繋いで安定感を与えています。

色彩は固有色によって描かれていて、人物の衣装は彩度が最も低く、人物の肌は彩度が高く処理されています。人物と比較して背景は彩度の低い褐色が使われているので人物の肌に視線が向かいます。

これは明度も同様で、衣装には低い明度、肌とシャツに高い明度、背景がそれらの中間の明度が配されているので、これらの明度の関係から人物の頭部と手へ視線が向きます。

このような要因によって肌に意識が向けば手と頭部を交互に見る視運動が起こります。

構図とデフォルメの関係

絵画の人物はデフォルメされて、それに呼応するように背景も歪んでいます。この違和感のないデフォルメは作者の一貫した構図法と構成手法が可能にしています。

直線は機械的な直線ではなく、人物の曲線と響き合って、適度に歪んでいます。手や顔のディテールも全体の形状とバランスを保ちながら違和感がないデフォルメが行われています。

この様なデフォルメによる形状の魅力は、直線と曲線の対比、安定感のある三角構図に重なる曲線、そして画面を平面的にさせる逆遠近法などが組織的に作用することで引き出されています。

モディリアーニの構図のまとめ

以上のように『マリオ・ヴァルヴォーリ』は平面的で、明暗法や線遠近法が見られないデフォルメされた平面的な画面です。描かれた人物は人体の骨格や筋肉の意識はあまり感じられず立体感はないものの、描かれた男性の個性と共に作者の観念や感性が感じられます。

絵画画面の構図で特徴的な安定した三角構図や見せたい箇所へ注視されるように計算された色彩や曲線、直線、形態の組み合わせ、リズム、バランス、プロポーションは絶妙です。絵画の構図を考慮するときはこれらの要素を意識する必要性を強く感じさせます。

2020年11月8日執筆公開

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