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アンドリュー・ワイエスの構図を分析する

アンドリュー・ワイエスの絵画の構図を分析します。写実的な絵画を描くアンドリュー・ワイエスの絵画の魅力は、構図を分析することで発見することができます。

アンドリュー・ワイエス《マガの娘》

アンドリュー・ワイエスはアメリカの代表的なリアリズムの画家です。水彩やテンペラなどで描かれた彼の絵画は全世界の絵画ファンを魅了しています。

アンドリュー・ワイエス《マガの娘》
アンドリュー・ワイエス《マガの娘》

マガの娘の肖像画は、1966年に描かれたテンペラ画で、大きさは67.3×76.8cmになります。

アンドリュー・ワイエス《マガの娘》の構図を分析する

アンドリュー・ワイエス《マガの娘》構図の分析
アンドリュー・ワイエス《マガの娘》構図の分析

アンドリュー・ワイエス《マガの娘》は、画面の左寄りに位置した女性が帽子をかぶり、腕の脇を開け、口を閉ざして左方向へ視線を向けています。

画面の2/3程の面積を占めていてる背景は抽象的で、写実的に描かれた人物とは対照的です。

光源の位置と帽子の紐が結ばれていないことから、女性は出かける前で、朝日を浴びている状態なのではないかと想像します。

構図と空間的処理

腕から帽子にかけて線(赤色線)として繋がり、その線が延長して交わると三角構図が形成されて安定感を与えています。

それに呼応するように帽子のつばの両端から両肩を結ぶ線(青色線)が逆三角形を形成し、下方向への意識が与えられて画面を超えた拡がりが感じられます。

画面には等量分割が認められます。画面の縦を1/4に分割する線(黄色線)では帽子のつばと口の位置になり、1/3に分割する線(橙色線)では肩の位置になります。更に画面の横1/2に分割する線(桃色線)は帽子の紐の位置になります。

それらの数理的な画面分割は有機的な人物の形状に歯切れの良い印象を付加しています。そして水平や垂直の意識によって生まれる線は、画面に落ち着きと安定感を与えるうえ、面や形態を喚起して空間に深みを与えています。

白い線は絵画が正方形になるように引いた線です。この線を引くことで作者が人物を正方形の形の中に納まるよう描いていたことが分かります。

この正方形のなかに人物を落とし込むことで、人物のシンメトリックな形態へ観るものをひきつけ、構図全体に安定感を与えています。

構図とモチーフの視認性

シンメトリーである人物の形状が画面中央よりも左寄りに配置されることで、画面全体に動きを与え、左を向く女性の動勢を際立たせます。さらに女性の左方向への視線は絵画画面を超越した空間を想像させます。

人物の描写は女性の視線方向にある光源を意識した明暗法がみられ、骨格や筋肉が意識されて写実的です。

帽子の紐の左右の長さの違いは線遠近法によってとらえられているので、紐につながる帽子の立体感を強くしています。

色彩は固有色で描かれ、的確なヴァルールが対象を再現しています。明度は頭髪が最も暗く、衣服、背景の順に明るくなります。肌と帽子の紐の明度が最も明るく、頭髪とのコントラストを強くして、頭部へ注視されやすい明度配分になっています。

画面の縦横それぞれを美的な快感がある黄金比率で分割(緑色線)すると、線(緑色線)が交わった部分が女性の左目にあたります。その結果、鑑賞者は女性の頭部へ目が注がれたら、女性の左目に視線が誘導されやすくなります。

背景とモチーフの関係

写実的な人物は抽象的な背景によって際立ち、更に写実的な人物が抽象的な背景に意識を向けさせます。

背景は形状が判然としませんが、人物右側にあたる反射光によって、背後には何らかの物質感は感じられます。

人物との境界での背景の描写は背景全体でみれば質感描写が弱く、背景の質感の差異による関係性が人物と背景に距離感をつくり空気感を感じさせています。

アンドリュー・ワイエスの構図のまとめ

以上のように『マガの娘』は、明暗法や線遠近法、人物の骨格や筋肉の意識がみられ立体的です。そして抽象的な背景に人物が写実的に描かれていますが、単なるリアルな絵画ではないようです。

この作品は背景と人物との対比、計算された数理的な分割、人物と衣服の形状、光と明暗表現などが複雑に絡み合って、女性の特別な瞬間が描かれた絵画として見ることができます。

2020年11月8日執筆公開

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