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盛期ルネサンス-線のフィレンツェと色彩のヴェネツィア

西洋絵画の歴史・美術史|芸術と絵画史

盛期ルネサンスの時代と主な画家

時代

16世紀初頭

主な場所

イタリアのフィレンツェ、ローマ、ヴェネチアなど

フィレンツェ、ローマの主な画家

  • レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)
  • ミケランジェロ・ブオナロティ(1475-1564)
  • ラファエロ・サンツィオ(1483-1520)

ヴェネチアの主な画家

  • ティツィアーノ(1490-1576)

※ここでは、盛期ルネサンスにおける一部の絵画の動向にかかわる人物について取り上げます。

盛期ルネサンスの絵画の特色と様式

イタリアの16世紀初頭の盛期ルネサンスでは、初期ルネサンスの古代復興と自然主義を継承し、写実的な絵画はさらに洗練されます。

盛期ルネサンスの主な舞台であるフィレンツェとヴェネチアで、画家の在り方や絵画の特色に大きな違いがあります。

フィレンツェの画家は、他に職業を持つマルチな人物が多く、描かれた絵画は線描が大切にされました。一方、ヴェネチアの画家は専業画家で、描かれる絵画は色彩と筆致に重きがおかれました。

フィレンツェのアーティストの特徴

レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)

アルベルティの『絵画論』に影響を受け、人物表現を研究した画家であり、ルネサンス期の万能人です。絵画制作では空間を表現するためにスフマート(ぼかし技法)や空気遠近法を取り入れました。代表作『モナリザ』『最後の晩餐』『聖アンナと聖母子』

レオナルド・ダ・ヴィンチ『最後の晩餐』
レオナルド・ダ・ヴィンチ『最後の晩餐』1495年-1498年頃
[壁にテンペラ,420cm×910cm,サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ修道院]

キリスト教の主題である『最後の晩餐』は、一点透視図法で構成され、人間の身振りや感情表現を見事に写実的に表現しています。まるで劇のクライマックスの一瞬を切り取ったかのような構図と人物表現は圧巻というしかありません。

レオナルド・ダ・ヴィンチ『聖アンナと聖母子』
レオナルド・ダ・ヴィンチ『聖アンナと聖母子』1508年
[ポプラ板に油彩,168cm×112cm,ルーブル美術館]

『聖アンナと聖母子』は、スフマートの技法によって人物のやわらかなボリュームを感じさせ、空気遠近法による青みを帯びた背景によって人物とのメリハリのある絵画空間が構築されています。

レオナルド・ダ・ヴィンチ『モナ・リザ』
レオナルド・ダ・ヴィンチ『モナ・リザ』1503年-1519年頃
[ポプラ板に油彩,77cm×53cm,ルーブル美術館]

『モナ・リザ』では、明暗法とともにスフマートと空気遠近法が利用され、奥深い空間に包まれた神秘的な雰囲気を感じさせます。

ミケランジェロ・ブオナロティ(1475-1564)

彫刻家であり、建築家、画家、詩人など、ルネサンス期の万能人です。彼が絵画で表現する人体は彫刻を彫るかのように描かれています。人体解剖学を取り入れた絵画における筋骨隆々な人体表現は特徴的で、女性も筋骨隆々に描かれています。代表作『アダムの創造』『最後の審判』

ミケランジェロ・ブオナロティ『アダムの創造』
ミケランジェロ・ブオナロティ『アダムの創造』1508年-1512年頃
[フレスコ,480cm×230cm,システィーナ礼拝堂(ヴァチカン)]

ミケランジェロ・ブオナロティ『最後の審判』
ミケランジェロ・ブオナロティ『最後の審判』1536年-1541年頃
[フレスコ,1370cm×1200cm,システィーナ礼拝堂(バチカン)]

ラファエロ・サンツィオ(1483-1520)

調和のとれた繊細で柔和な絵画を描いた画家です。19世紀まで西欧絵画の美の基準と崇められました。代表作『聖体の論議』『アテネの学堂』

ラファエロ・サンツィオ『聖体の論議』
ラファエロ・サンツィオ『聖体の論議』1509年-1510年頃
[フレスコ,500cm×770cm,バチカン宮殿]

ラファエロ・サンツィオ『アテナイの学堂』
ラファエロ・サンツィオ『アテナイの学堂』1509年-1510年頃
[フレスコ,500cm×700cm,バチカン宮殿]

ヴェネチアのアーティストの特徴

ティツィアーノ(1490-1576)

ジョバンニ・ベッリーニ(1433-1516)の工房で絵画を学んだティッツァーノは、あらゆる油彩技法を開発し、近代油彩画の創始者とも称されています。

描かれる絵画は、あらかじめ決めた構図と薄塗りにこだわることなく、柔軟な筆さばきによって構図を自由に変形させ、絵の具は流動的で厚塗りでした。

その結果、輝きのある色彩や動きのあるタッチによる人物の生き生きとした生動感はは称賛されました。代表作『聖母被昇天』

ティツィアーノ『聖母被昇天』
ティツィアーノ『聖母被昇天』1516年-1517年頃
[パネルに油彩,668cm×344cm,サンタ・マリア・グロリオーザ・デイ・フラーリ聖堂]

盛期ルネサンスの特徴的な絵画技法

初期ルネサンスの透視図法や明暗法が使用されて描かれた絵画は、レオナルド・ダ・ヴィンチの『モナリザ』で確認できるように、スフマートや空気遠近法の技法によって、さらに現実空間がリアルに再現されるようになります。

スフマートとは、あらかじめ描かれた絵の具やデッサンの明暗の境界をぼかすことで、形態を柔らかく浮かび上がらせたり周囲に溶かし込んだりする技法です。この技法を絵画画面に与えることで、よりリアルな空間と質感が実現しました。

空気遠近法は、絵画空間の奥行きを色彩によって表現した描き方です。これは現実の対象にある固有の色彩が遠くにあるほど青みを帯びて霞むことを応用しています。

空気遠近法は15世紀のネーデルランド絵画でも確認することができます。

盛期ルネサンスの絵画様式のその後

盛期ルネサンスにおける古代ギリシア・ローマの復興と再生を目指した古典主義の絵画やヴェネツィア特有の絵画は、マニエリスムを媒介にしながらバロック美術へ移行していきます。

現代の写実絵画の基礎技法としても受け継がれるルネサンスで確立した透視図法や明暗法、スフマートや空気遠近法などは、必ず理解しておきたい西洋絵画の基本技法です。

参考文献

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