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諏訪敦-記憶に辿りつく絵画

芸術と絵画史|デッサンと言う礎

諏訪敦-記憶に辿りつく絵画~亡き人を描く画家~日曜美術館を見て…

■番組の主な内容

このテレビ番組は交通事故で亡くなられた娘さんのご両親が、娘さんを絵画で再現したいという依頼からはじまります。依頼を受けるのは画家の諏訪敦氏(以下、敬称略)です。

諏訪敦は舞踏家である大野一雄を取材し写実絵画として作品を残していることで知られるリアリズム絵画の現代作家です。その作風はテーマのための徹底した取材に基づく説得力がある写実的な描写です。

この依頼は亡くなられた方を描くという取材が困難な仕事です。諏訪敦はどのように悲しみの中にある依頼主を納得させる絵画を完成させるのかが一つの焦点になります。

亡くなられた娘さんは海外によく出かけ、その旅先で原因不明の交通事故に遭遇し、亡くなられています。事故調査の報告もなく、納骨もしていない状況です。

家には娘さんの大きく引き伸ばされた写真が壁一面に飾られていて、その悲しみが伝わってきます。家族は娘の蘇りを願い、精神的な支えになるのではないかという思いから、絵画の制作を依頼したようです。

諏訪敦は、そのような状況の家族の中に入っていき、取材を始めます。娘さんを描くためにどのような行動に出るのだろうか?緊張が伝わります。

諏訪敦は緊張感が感じられる中で、ご両親のスケッチを始めます。そこでは母親の骨格や肌、髪質などを実際に触れることで、写真や映像以外の娘さんの生の情報を収集しようとします。

諏訪敦は、記憶に残る場所として手を描くことに拘ります。今回、写真だけではわからない手の質感や骨格などの情報を得るために、義手などを制作する企業に手の模型を依頼します。

そして諏訪敦は、依頼主の娘に対する気持ちを制作する絵画で応えることができるのかという不安を抱きはじめ、NPO法人"生と死を考える会"の人と話しをすることによって気持ちの着地点を模索していきます。

制作途中で、依頼主とのメールでの対話の中で、娘さんに対する気持ちと制作していた絵の方向性の相違から絵画を一度塗りつぶしてしまいます。

NPO法人で相談することがきっかけになったのか、諏訪敦は絵画を制作する上での気持ちの着地点を見出していきます。そして絵は描き直され、娘さんの絵は仕上がります。

ご両親をスケッチし始めて約半年後に絵が納品されて終わります。


■番組を見終えての感想

制作当初、その絵画は依頼主の気持ちにうまく応えられず行き詰っていましたが、諏訪敦のフィルターを通すことでしか見えない絵画に集約されていきました。

ただ、そこにはご両親の気持ちや家族の印象、写真、映像、ご両親のスケッチなどさまざまな情報があるからこそ、諏訪敦のフィルターが活かされた一枚の絵画に仕上がっていると考えられます。

今回の制作で、依頼主の亡くなられた娘さんを描くために、写真や映像を使い、また、義手まで利用して娘さんに近づこうとしています。

また、依頼されたご両親の娘さんの話、娘を亡くした今の気持ちなど、できる限りの情報を拾い集めて、真実の娘さんを描こうとしています。

それは、テレビのゲストが"探求こそが写実である"と言っていたように、題材を探求することが、題材の真理へ近づく方法であると感じられました。そして、それは作家の表現性が確立されることでもあると思います。

諏訪敦は、今回、生きるために絵画を依頼するご両親のために、死んだ娘さんを描く仕事を受けました。それは同時に生と死を見つめることで、野田弘志氏の"死すべき命を見つめる"リアリズム絵画と共通していることや接点が多くあると思われました。

※2022年4月26日訂正、加筆
※2012年3月26日執筆

諏訪敦 画集

どうせなにもみえない―諏訪敦絵画作品集 [大型本]
どうせなにもみえない―諏訪敦絵画作品集 [大型本]

内容紹介(amazon.co.jpより)
写実を超えた写実を描く諏訪敦、その新たな表現領域を本書に結実。 諏訪敦の思考の軌跡を探る、テキスト、挿図満載の画期的構成。 ●日英併記

内容(「BOOK」データベースより)
「濃密なる思考」と「静かなる闘い」の軌跡、待望の最新作品集。



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諏訪敦 絵画作品集〈1995‐2005〉 [大型本]
諏訪敦 絵画作品集〈1995‐2005〉 [大型本]

内容(「MARC」データベースより)

細密描写画家・諏訪敦の作品集。前衛舞踏家・大野一雄と大野慶人を描いた連作シリーズのほか、「眠るひとたち」「深海」「肖像」等、1995年から2005年までの主立ったものを中心に編纂。大野慶人との対談も収載。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

諏訪 敦
1967年、北海道に生まれる。1992年、武蔵野美術大学大学院造形研究科油絵コース修了。1994年、文化庁芸術家派遣在外研修員に推挙され以降2年間のスペイン在住。1995年第5回バルセロ財団主催国際絵画コンクールで大賞受賞。東洋人としては初めての受賞となりマジョルカのバルセロ財団に作品収蔵。1998年、文化庁主催DOMANI・明日展に招待出品(安田火災東郷青児美術館)。2000年、「大野一雄・慶人」(日本橋三越)。2002年、東京ステーションギャラリーに作品収蔵。写実~レアリスム絵画の現在展(奈良県立美術館)。2007年、Born in HOKKAIDO 大地に実る、人とアート(北海道立近代美術館)。文化庁主催「旅」展(新国立美術館)。2008年、諏訪敦絵画作品展 複眼リアリスト(佐藤美術館)。Art Taipei 2008(TWTC Exhibition Hall)。2009年、武蔵野美術大学80周年記念展「絵の力 ―絵の具の魔術―」(武蔵野美術大学)。ART@AGNES(KOGURE+Roentgenwerke AG)。2010年功術 KOH‐JYUTSU(スパイラルホール)。ART HK 10(Hong Kong Convention and Exhibition Centre)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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諏訪敦氏の紹介サイト

ATSUSHI SUWA 諏訪敦 公式サイト…古典的描法でありながら独自の視点で同時代的テーマ性をもった制作を続ける画家、諏訪敦の公式ウェブサイトです。

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