アントニオ・ロペスのリアリズム絵画
芸術と絵画史|デッサンと言う礎
アントニオ・ロペスの写実絵画とは
2013年の5月頃、アントニオ・ロペス・ガルシア氏(以下、敬称略)の展覧会へ行きました。
現在、日本ではスペインのリアリズム絵画は人気があり、その中でもアントニオ・ロペスは特に人気のある作家です。日本の作家へ多くの影響を与えるスペインのリアリズム絵画を見ることができるこの展覧会は貴重でした。
そして、今回来日したアントニオ・ロペスの多くのインタビューも含め、日本の造形世界へ与える影響は大きいものでしょう。
アントニオ・ロペスのリアリズム絵画制作に対する方法や姿勢は、"リアリズム絵画はどうあるべきか?"という疑問を少しでも解消してくれます。
そのひとつは、リアリズム絵画をどのような目的や意味を持って描くのかによって、描く方法や姿勢は変わるもので、出来上がる作品がそれを表し、作家の評価に明確につながるものだということです。
例えば、好きな写真を絵画として写し取りたければ、写真を見ながら描けばよいわけです。しかし、絵画の対象を目の前にした空間や距離感、匂いや皮膚感などの五感なども含めて描こうとなると、写真だけでは簡単に絵画として描ききることは困難だと思います。
そのような描く目的と描く手法は如実に出来上がる作品に表れ、作家の能力は評価されていくでしょう。ここでは単に写真を参考にして描かれた絵画なのか、その場で体感して描いた絵画なのかが、評価の分かれ目になります。
その場でしかわからない臨場感を場所の違うアトリエに持ってきて絵画として表現することは、かなりの能力が必要になります。そう考えるとアトリエで対象を目の前にして描く静物画や人物画を制作することは風景画を描くよりもたやすく感じます。
アントニオ・ロペスは臨場感を目的の一つとし、リアリズム絵画として描ききる画家です。彼の風景画は、同じ季節、同じ光、同じ時間にカンバスを目的の場所へ運び出して、目の前に広がる対象を描くことで完成されます。そのため風景を描けるチャンスは数日なので、この作業を完成するまで数年間行います。
リアリズム絵画なので線遠近法を使えばある程度写真を使用して描けるだろうと容易に考えてしまいがちですが、アントニオ・ロペスは実際の目で見たときの線のゆがみ方は線遠近法で表現できるものではないと言っています。
もし、アントニオ・ロペスの制作方法がリアリズム絵画を制作するスタイルとして絶対的なものであれば、町中でたくさんの風景画家に出くわすことになると思います。
しかし現実ではそんなことはありません。土日に絵画教室の生徒を見かけるくらいのものでしょう。
それでもアントニオ・ロペスのリアリズム絵画への制作手法や姿勢を少しでも取り入れていくためにはどうすればよいか考えてみたいと思います。
まずは、制作する目的をはっきりさせることが重要だと思います。狙いやテーマを明確にして、それを伝える手法を検証してみることが必要だと思います。
例えば、お気に入りの風景の写真を大きなキャンバスに油絵で描いて友達にプレゼントすることを制作の目的にします。その場合、写真で得られる情報と自分が持つ絵画の要素以上のものを表現することは困難だと思います。つまり、臨場感がない作品に仕上がるでしょう。
もし、写真からでは表すことのできない臨場感を絵画の要素として表現したい場合はどうすればよいのでしょうか?
アントニオ・ロペスのように大きなキャンバスと画材を現地に持っていくことが最善な方法だと思います。しかし時間や場所などによっては制限があったり、物理的に不可能な場合が多いので、それ以外の方法を考えてみたいと思います。
絵画の対象を取材する場合、現代ではカメラやモバイル、パソコンなど便利なものが多いので、これらを利用しない人は少ないと思います。写真や動画を撮影してパソコンに取り込み再構成、再構築することも容易に行えます。
しかし、臨場感のあるリアリズムを追及する場合、その場に臨んでデッサンやスケッチをすることも必要なのではないでしょうか。カメラなどでは得ることができない感覚をメモするように、その場でしか感じることができない空気感や距離感、色合いなどのスケッチを行うことは必要です。
そのうえで補助的にカメラなどを利用することで、少しでも臨場感のある絵画表現に近づけるのではないでしょうか。
今回のアントニオ・ロペス展では特にリアリズム絵画になればなるほど、臨場感が作品の優劣を左右するものだと思いました。
※2013年11月執筆
アントニオ・ロペス 画集
内容紹介
現代スペイン・リアリズムの巨匠 アントニオ・ロペス
光と愛を描くリアリズムの真髄、日本初の回顧展がこの一冊に。
磯江毅にも影響を与えた、マドリードにおけるリアリズムの中心人物であり、スペインで最も重要な現存の芸術家であるアントニオ・ロペス。
日本初、そして東洋初の開催となる記念すべき回顧展「現代スペイン・リアリズムの巨匠 アントニオ・ロペス展」に出品されたドローイング、
油彩、彫刻あわせて64点の傑作を収録しました。
内容紹介
現代スペイン・リアリズムの巨匠がみずからを語る。油彩、素描、彫刻の分野で世界的評価を誇り映画『マルメロの陽光』でも知られるアントニオ・ロペス・ガルシアが芸術制作の内奥を解き明かした貴重な講演記録。カラー図版13点を所載。
amazon.co.jpのカスタマーレビュー
現存する20世紀最大のリアリズム作家、アントニオ・ロペス・ガルシア。
日本でも人気のある作家ですが、何故かしら、僅か4度しか作品が渡来していません。
本書は希少な代表作を一覧できる英文の図録です。
表現上、印刷物という壁はありますが大変綺麗な印刷で、真筆を見たくさせる魅力があります。
ちなみに、ペーパーバック版は「Antonio Lopez (ハードカバー)」と比較し図録の多くは重複するところがあります。掲載サイズは若干小さめですが、画質はペーパーバックが良好で、明るいところの詳細がよく見てとれます。
アントニオ・ロペス・ガルシア氏の紹介サイト
■ そこにある永遠 アントニオ・ロペス…NHKの日曜美術館でアントニオ・ロペスを取材した紹介サイト。
■ アントニオ・ロペス - Wikipedia…ウィキペディアのよるアントニオ・ロペス 氏の情報。