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構図にある放射線の分析

構図にある放射線の特徴[YouTube動画]

絵画にある構図の放射線を分析して、放射線の役割、心理作用を考えてみましょう。

放射線の構図の特徴

絵画にみられる放射線の構図の特徴、心理作用を5枚の絵画から理解しましょう。

主に放射線の構図は、放射する形の中心点から外側へ視線が広がったり、逆に外側から中心点へ向かって視線が集中したりする作用があります。

それらの点を考慮しながら具体的に絵画を見ながら考察してみましょう。

レオナルド・ダ・ヴィンチ『最後の晩餐』の放射線の構図

レオナルド・ダ・ヴィンチ『最後の晩餐』1495年~1498年
レオナルド・ダ・ヴィンチ『最後の晩餐』1495年~1498年

レオナルド・ダ・ヴィンチ『最後の晩餐』の放射線の構図
レオナルド・ダ・ヴィンチ『最後の晩餐』の放射線の構図

この絵画はレオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』です。

この絵画は一点透視図法で描かれることで、放射線の作用がもたらされます。

一点透視図法の消失点は絵画の中心に位置し、そこに描かれたイエス・キリストは象徴性を強くします。

また、この絵画が象徴的な場面として強く印象が残る要因として、オレンジ色の線を境界にしてシンメトリーに描かれていることも見逃せません。

このようなシンメトリーによる構図は西洋絵画の特徴の一つで象徴的な場面でよく採用されます。

以上の要因から鑑賞者の視線は、圧倒的にキリストへ向かいますが、同じテーブル上の緑色の線で示したキリストと同じ高さの人物たちへは左右に視線が向かいやすく、構図のバランスが保たれているように感じられます。

ラファエロ・サンティ『アテナイの学堂』の放射線の構図

ラファエロ・サンティ『アテナイの学堂』1509~1510年
ラファエロ・サンティ『アテナイの学堂』1509~1510年

ラファエロ・サンティ『アテナイの学堂』の放射線の構図
ラファエロ・サンティ『アテナイの学堂』の放射線の構図

この絵画はラファエロの『アテナイの学堂』です。

先ほどの『最後の晩餐』と同じく、一点透視図法で描かれ、その消失点にアリストテレスとプラトンが描かれていてこの二人は象徴性を強くします。

この絵画も中心への求心力は強く、オレンジ色の線を境にシンメトリーに象徴的に描かれているので、見る人の印象に残りやすい構図です。

ただ、手前に多くの人物が描かれていることで、『最後の晩餐』よりも求心力は強く感じられません。

また、『最後の晩餐』同様に、地平線を示す緑色の線上に人物を配置することで構図のバランスが保たれているように感じられます。

クロード・モネ『サン=ラザール駅』の放射線の構図

クロード・モネ『サン=ラザール駅』1877年
クロード・モネ『サン=ラザール駅』1877年

クロード・モネ『サン=ラザール駅』の放射線の構図
クロード・モネ『サン=ラザール駅』の放射線の構図

この絵画はクロード・モネの『サン=ラザール駅』です。

この絵画もオレンジ色の線を境にしてシンメトリーで描かれているので、印象が強く残ります。

そして、一点透視図法で描かれた駅は奥行きを感じさせ、緑色の線で示したように地平線が画面の下に位置しているので、空が大きく描かれて解放感が感じられます。

このように奥行きと解放感のある駅を象徴的に描いたこの絵画は、旅立つ人物の未来や希望を感じさせます。

また、駅の屋根が矢印のような形状をしていたり、一点透視図法を強く示唆する対象が描かれていないので、放射線上の外側へ向かう動きや、中心へ向かう動きは強くは感じられません。

葛飾北斎『五百らかん寺さざゐどう』の放射線の構図

葛飾北斎『五百らかん寺さざゐどう』1830年頃
葛飾北斎『五百らかん寺さざゐどう』1830年頃

この絵画は葛飾北斎の富岳三十六景の一枚『五百らかん寺さざゐどう』です。

この絵画を素直に見れば、人物が見ている富士山に目が向き、そこから放射状に位置する人物へふたたび視線が向かいます。

葛飾北斎『五百らかん寺さざゐどう』の放射線の構図
葛飾北斎『五百らかん寺さざゐどう』の放射線の構図

この絵画の構図は、一点透視図法で描かれていますが、建物の構造や傾きなどを考慮すると青い線のように一点透視図法で設定されているように感じられます。

しかし鑑賞者の視線は富士山へ向かうので、一点透視図法で誘導された視線は、消失点ではなく富士山の方向へ動きを生じさせることになります。

葛飾北斎『五百らかん寺さざゐどう』の放射線の構図
葛飾北斎『五百らかん寺さざゐどう』の放射線の構図

建物から見れば一点透視図法の消失点は富士山の右側に生じますが、描かれている人物の視線や鑑賞者の心理では富士山を放射線の中心として捉えると思います。

このような物理的な中心点と心理的な中心点の2点の中心点のズレは、揺らぎと動きを生じさせ、飽きることのない絵画空間を感じさせます。

また、富士山を信仰の対象として捉えた場合、富士山はエネルギーとして放射状に広がり、それを人々は受け止めているように見ることができます。

フィンセント・ファン・ゴッホ『夜のカフェテラス』の放射線の構図

フィンセント・ファン・ゴッホ『夜のカフェテラス』1888年9月
フィンセント・ファン・ゴッホ『夜のカフェテラス』1888年9月

この絵画はゴッホの『夜のカフェテラス』です。

この絵画も一点透視図法で描かれていますが、右側の建物と左側の建物では、多少消失点がずれているように感じられます。

フィンセント・ファン・ゴッホ『夜のカフェテラス』の放射線の構図
フィンセント・ファン・ゴッホ『夜のカフェテラス』の放射線の構図

右側にあるいくつかの建物の消失点を基準にして放射線を描くと青い線のように感じられます。

フィンセント・ファン・ゴッホ『夜のカフェテラス』の放射線の構図
フィンセント・ファン・ゴッホ『夜のカフェテラス』の放射線の構図

しかし、左の明るい建物を基準にした一点透視図法では赤い線のように放射線が描かれます。

青い線による放射線と赤い線による放射線は少しのずれですが、先ほどの葛飾北斎の絵画のように画面に揺らぎをもたらしています。

この絵画は右側の暗く寂しい通りと左側の明るいにぎやかなお店が対比になりますが、異なる放射線の中心点2つが揺らぎや動きをつくり、さらに見る人の思いを増幅させて対比を強くしているように感じられます。

放射線の構図の特徴 - まとめ

  • 放射線の構図は、透視図法などで見られ、絵画に奥行きをもたらす効果があります。
  • 放射線の構図は、放射線の中心点に視線が集中したり、放射線状に視界が拡がる効果があります。
  • 放射線の構図は、放射線の中心点に視線を集中することで、象徴的に対象を示すことができ、構図全体をまとめる効果があります。
  • 放射線の構図は、放射線状に中心から外側に向かって拡がるときに、動きや力強さ、活力を感じさせることができます。
  • 放射線の構図は、対称的な配置である場合、構図に安定感や均衡をもたらし、非対称な配置である場合、動きを構図にもたらします。
  • 放射線の構図は、放射線状に拡がるエネルギーの放射、信仰や進化などを象徴する場合があります。

参考画像

  • レオナルド・ダ・ヴィンチ『最後の晩餐』1495年~1498年,テンペラ,壁画,420×910cm,サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ修道院(ミラノ)
  • ラファエロ・サンティ『アテナイの学堂』1509~1510年,フレスコ画,500×700cm,ヴァチカン宮殿ラファエロの間
  • クロード・モネ『サン=ラザール駅』1877年,油彩,キャンバス,75×104 cm,オルセー美術館
  • 葛飾北斎『五百らかん寺さざゐどう』1830年頃,木版画,大判(約26.5cm×約39cm)
  • フィンセント・ファン・ゴッホ『夜のカフェテラス』1888年9月、アルルにて,油彩,キャンバス,81×65.5cm,クレラー・ミュラー美術館

2024年3月執筆公開

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