デッサンと言う礎 | デッサンの描き方と基礎技法 デッサンと言う礎 | デッサンの描き方と基礎技法

構図にある斜線の分析

構図にある斜線の特徴[YouTube動画]

絵画にある構図の斜線を分析して、斜線の役割、心理作用を考えてみましょう。

構図における斜線の特徴

構図の斜線を分析して、絵画における斜線の役割、心理作用を4枚の絵画から考えてみましょう。

セザンヌ『リンゴとオレンジのある静物』の斜線の特徴

ポール・セザンヌ『リンゴとオレンジのある静物』1895-1900年
セザンヌ『リンゴとオレンジのある静物』1895-1900年

ポール・セザンヌ『リンゴとオレンジのある静物』斜線の分析
セザンヌ『リンゴとオレンジのある静物』斜線の分析

上図の静物画は、青色の線で示したテーブルの脚に垂直線方向へ向かう動きを感じることができますが、水平線と垂直線がほとんどありません。画面は斜めの線によって組み立てられているのが分かります。

水平線や垂直線と比較すれば斜線には強い動きがあるので、静物画でありながら、強い動きを常に画面から感じることができます。

斜線はバランスを保つことが難しいので、ある斜線に対して一対になる斜線や面が描かれる場合が多くあります。

例えば緑色の線のように同じ方向へ向かう一対の斜線は動きと方向性を画面に与えることで、絵画のバランスを制御しています。

また、この絵画は赤色の線で分割するように三角形の面が一対になって画面を支配しています。それらは絵画のバランスを保ちながらダイナミックな動きと共にリズム感を作っています。

セザンヌ『リンゴの籠のある静物』の斜線の特徴

ポール・セザンヌ『リンゴの籠のある静物』1890-94年
セザンヌ『リンゴの籠のある静物』1890-94年

ポール・セザンヌ『リンゴの籠のある静物』斜線の分析
セザンヌ『リンゴの籠のある静物』斜線の分析

この静物画の画面に描かれたテーブルの水平線は、赤色の線で記した菱形の布の動き抑制します。不安定な菱形の布は安定的な台形のテーブルで支えられていてます。同じような形態なので構図にねじれを感じさせることもできます。

青色の線で示した分割線は画面を超えた三角形を暗示させ、画面に安定感を与えるための一対になる面を認めることができます。

多少斜めに描かれている緑色の線で示した中央の黒い瓶は画面の中で芯になり、画面のバランスが崩れないように制御します。

この絵画は、水平線が多く利用されているので安定しているようですが、水平線も垂直線も多少斜めになったり歪んでいるので、画面は静かで落ち着いた感じには仕上がっていません。常に小刻みに揺れ動いているように見えます。

セザンヌ『大水浴図』の斜線の特徴

ポール・セザンヌ『大水浴図』1905年
セザンヌ『大水浴図』1905年

ポール・セザンヌ『大水浴図』斜線の分析
セザンヌ『大水浴図』斜線の分析

上図では赤色の線で示した木に最も目が向けられると思います。太く長い斜線で不自然に斜めになった木は強い動きを感じることができます。

また、人物の多くも斜線で描かれていて、それぞれに動きを感じることができます。しかし、これらの個々の人物の動きは緑色の線で記した三角形のように群化されて面としての性質を強くします。

画面は青色の線で示した水平線によって安定感があります。そして青色の線の水平線と赤色の線の木を組み合わせた三角構図が画面全体を支配します。

更に、この三角構図と緑色の線で記した三角形が複合化すると、画面は平面性を強調した絵画空間になります。

セザンヌ『カード遊びをする人々』の斜線の特徴

ポール・セザンヌ『カード遊びをする人々』1890-92年
セザンヌ『カード遊びをする人々』1890-92年

ポール・セザンヌ『カード遊びをする人々』斜線の分析
セザンヌ『カード遊びをする人々』斜線の分析

この絵画の画面は先に見た3枚の絵画と比較して、水平線と垂直線が、しっかり描かれているので、静かで安定感があります。

この安定的な構図の中に強い動きを与えるように斜線の分割線(水色の線)が導入されています。この分割線が支えになることで、多くの斜線が組み込まれていきます。

注目したい斜線は人物の腕と視線、壁に掛けられているパイプです。

静かな画面の中で一番強い動きを感じるのが腕のライン(赤色の線)です。このライン(斜線)をたどるとカード遊びをしていることが分かります。

更に視線(緑色の線)が手札のカードへ向けられていることが容易にわかると思います。

このように、何らかの方向、行為へ向けられた斜線は導線として絵画の構図を組み立てるうえで重要な役割があります。

人物の視線は斜線を描かなくとも斜線を描いたことと同じくらいの動きを画面に与えることができます。

これは壁に掛けられているパイプも同様です。この絵画は中央のトランプ遊びに視線が強く向けられますが、その反動として鑑賞者はその外側へ視線が誘導されます。

カーテンや背後の人物、壁などへ視線が向きますが、パイプに視線が向くとパイプの方向(青色の線)が示すトランプ遊びの方向へ再度視線が向かいます。

背後の人物に視線が向かえば人物の視線(黄色の線)が示すトランプへ視線が向かいます。

方向を示唆するだけの斜線が絵画の構図を組み立てる役割をしていることが理解できると思います。

構図にある斜線の特徴まとめ

  • 斜線はダイナミックな動きやリズムをつくる
  • 平行線や垂直線を”静”としたら斜線は”動”である
  • 斜線は群化したり、並列することで動きをコントロールできる
  • 斜線のある構図は水平線や垂直線と組み合わせると安定する
  • 斜線は導線の役割がある

参考画像

  • ポール・セザンヌ『リンゴとオレンジのある静物』1895-1900年,油彩,キャンバス,73×92cm,オルセー美術館
  • ポール・セザンヌ『リンゴの籠のある静物』1890-94年,65×80cm,シカゴ美術館
  • ポール・セザンヌ『大水浴図』1905年,油彩,キャンバス,208×249cm,フィラデルフィア美術館
  • ポール・セザンヌ『カード遊びをする人々』1890-92年,65×81cm,メトロポリタン美術館

2021年3月10日執筆公開

デッサンの描き方と基礎技法-目次